上智大生靖国神社参拝拒否事件

上智大生靖国神社参拝拒否事件とは

1932年（昭和7年）に発生した上智大生靖国神社参拝拒否事件は、上智大学の学生が靖国神社への参拝を拒否したことに端を発する事件です。この事件は、当時の日本の軍国主義と宗教的信仰の自由との間で起きた対立を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

事件の経緯

1932年5月5日、上智大学予科に配属されていた北原一視大佐が、学生60名を引率して靖国神社を参拝しました。この際、カトリック信者の学生3名が、靖国神社の本殿での敬礼を拒否しました。この行動を問題視した陸軍は、配属将校の引き揚げを示唆しました。

当時、学校教練を履修することで兵役期間が10ヶ月短縮される制度があったため、学校教練の実施は学生獲得の観点から非常に重要でした。そのため、配属将校の引き揚げは、大学の経営を揺るがす重大な問題でした。さらに、軍との対立は、大学の廃止やカトリック教会の弾圧につながる可能性もありました。

この事態を受け、日本カトリック教会の東京大司教区長であったジャン・アレキシス・シャンボンは、文部大臣の鳩山一郎に靖国参拝の意義について照会しました。文部次官の粟屋謙からの返信で、参拝は愛国心と忠君の念を表すものであるとの回答を得ました。ただし、この回答は参拝が宗教行為であるかどうかには触れていませんでした。カトリック教会は、この回答をもって靖国参拝が宗教行為ではないと解釈し、神社参拝を許容することで事態の収拾を図ろうとしました。

しかし、1932年10月1日に『報知新聞』がこの事件を報道したことで、世間のカトリック教会への批判が強まりました。カトリック教会は、その国家観と忠君愛国についての見解を示すために『カトリック的国家観』を出版することを予告しました。そして、1932年12月1日に同書を出版し、カトリック信者にも愛国と忠君のための神社参拝が許容されることを公に示しました。

その後の展開

カトリック教会の対応により、陸軍将校は上智大学に復帰しました。しかし、軍部の圧力に屈した日本のカトリック教会は、存亡の危機を回避するために、靖国神社への参拝を全面的に受け入れることになりました。学長をはじめ、神父、学生に至るまで靖国神社へ参拝し、聖省訓令「祖国に対する信者のつとめ」を発布しました。

現代の評価

21世紀に入り、西山俊彦神父は、この事件を「従来は他宗教への儀式を禁じていた教会が、物理的安全のために信仰者の魂を売り渡し、神社参拝を含む天皇制支配に屈服した」と批判しています。さらに、「その結果として、教会は侵略戦争の推進に協力することになった」と主張し、聖省訓令の取り消しを訴えています。

まとめ

上智大生靖国神社参拝拒否事件は、戦前の日本における国家と宗教の関係、信仰の自由、そして戦争責任といった複雑な問題を浮き彫りにする事件です。この事件は、現代においても、宗教と国家の関係を考える上で重要な教訓を与えてくれます。

参考文献

『カトリック教会の戦争責任』、西山俊彦、サンパウロ、2000年。 ISBN 978-4805614938
『ひびき-非暴力による平和への道』、日本カトリック司教協議会、カリタスジャパン、2006年。

関連事項

信教の自由
靖国神社問題
祖国に対する信者のつとめ
宗教的迫害
奄美カトリック迫害
同志社高商神棚事件

外部リンク

靖国神社参拝事件 No．40 (PDF) - 上智大学
神社参拝と宗教的行為の規定の恣意性 －「信教の自由」原理の確立と「カトリック教会の戦争責任」に関連して(1)－
* 西山俊彦『カトリック教会の戦争責任 - 軍靴の響きが迫る現在の「証し」を共に考える - 』 (PDF)

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