神取遺跡

神取遺跡

神取遺跡は、山梨県北杜市明野町に位置する複合遺跡です。この遺跡は、旧石器時代終末期から縄文時代草創期を中心に、古墳時代・平安時代の集落の痕跡も確認されており、多様な時代の様相を垣間見ることができます。

立地と景観

遺跡は、茅ヶ岳南麓の西端、標高約480mの塩川左岸に位置する河岸段丘上にあります。八ヶ岳山麓に比べて水利に乏しい茅ヶ岳山麓において、貴重な遺跡として知られています。

発掘調査と出土遺物

1992年に行われた発掘調査により、この遺跡が旧石器時代終末期から縄文草創期の空白を埋める重要な遺跡であることが判明しました。住居跡こそ確認されていませんが、柱の跡から2棟の住居が存在したと考えられています。

出土遺物の中で特筆すべきは、縄文時代草創期の土器と石器です。土器には、爪形文土器、表裏縄文土器、隆起線文土器などがあり、東日本における草創期土器の一般的な特徴を示しています。さらに、東海地方との交流を示す上ノ山式土器や粕畑式土器も出土しており、当時の広範囲な文化交流を物語っています。

石器は、槍先形尖頭器が中心で、狩猟に使われたと考えられています。また、県内では唯一となる後期旧石器時代の局部磨製石斧や礫器なども見つかっています。石器の材料は、主に珪質頁岩で、一部に安山岩が使われています。遺跡からは、石器の未完成品や製作過程で生じた剥片が大量に出土しており、石器製作の場であったことを示唆しています。

温暖化と狩猟の変化

槍先形尖頭器は、主に大型獣を対象とした狩猟に使われていましたが、石鏃の存在は、中型獣を対象とした弓矢の使用を示唆しています。これは、旧石器時代から縄文草創期にかけての温暖化に伴い、大型獣が減少し、弓矢を用いた狩猟へと変化していったことを反映していると考えられます。

その後の展開

神取遺跡の後には、八ヶ岳山麓地域で縄文早期の社口遺跡が現れ、尖頭器は姿を消します。その後、縄文早期には富士北麓の池之元遺跡や古屋敷遺跡などで、山岳地域から甲府盆地への進出と定住生活が始まり、釈迦堂遺跡群のような大規模な集落へと発展していきます。

文化財

出土遺物は山梨県指定有形文化財として、北杜市教育委員会に所蔵されています。これらの遺物は、山梨県の歴史と文化を理解する上で貴重な資料となっています。

参考文献

明野村教育委員会『神取』 8巻〈明野村文化財調査報告〉、1994年3月31日
佐野隆「神取遺跡」『甲斐路86』（1997、山梨郷土研究会）
* 小野正文「縄文文化の開始」『山梨県史通史編1原始・古代』

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