神名帳考証土代

神名帳考証土代

『神名帳考証土代』（じんみょうちょうこうしょうどだい）は、江戸時代後期の国学者である伴信友によって著された、全69巻に及ぶ大著です。この書物は、『延喜式神名帳』（以下、『神名帳』）に記載された神社（式内社）について、詳細な考証を行ったものです。

概要

『神名帳』に記載された式内社の研究は、古くは室町時代の吉田兼倶に始まり、江戸時代には多くの研究者によって盛んに行われていました。本書もその流れを受け、式内社（および一部の国史見在社）の名称、祭神、創祀、神位、由緒、沿革、所在地、類社などについて、詳細な考証を加えています。

著者の伴信友は、考証を行うにあたり、多くの文献を原文から引用し、自身の見解を「信友按」や「信友云」として加えています。このことから、信友が確実な書誌学・考証学の基礎の上に立って神社研究に取り組んだことがわかります。その考証範囲の広さ、そして原典に忠実な姿勢は、本書を同種の著作の中でも特に重要なものとしています。

なお、信友は本書の後に『神社私考』を著しますが、その巻1・2は本書の首巻に相当するものとされています。

成立

本書の奥書には、『神名帳』の写本24本を対校して本文を校合・校訂し、そこに考証を加えて、文化10年（1813年）に脱稿したと記されています。しかし、信友自筆の写本には、文化元年に若狭国から上京した際に『神名帳考証撿録』を借用し、書写したとあります。このことから、信友は『撿録』を参考にしつつ、『神名帳』本文の校合を進め、その後7年をかけて本書を完成させたと考えられます。

また、本書の後継として、黒川春村が『神名帳考証土代附考』を著しています。これは、本書の引用を補足したり、挿絵を加えたり、自身の見解を付加したものです。

著述姿勢

本書の自筆裏書には、儒仏習合的な解釈を排し、古道に立ち返るという信友の姿勢が記されています。また、当初は『神名帳考』と名付けていたものが、内容が発展したため「神名帳の正しき考証を述作らむ」ための「下書となるへきもの」と位置づけられたことがわかります。そのため、信友は日本各地の地誌や神社誌、国内神名帳、先行研究、民間信仰に至るまで幅広く収集・研究し、総合的な研究方法を採用しました。また、典拠とした文献を明示し、原文のまま引用するなど、原資料を重視した姿勢も特徴的です。

信友は、本書の完成後も新たな見解が得られるたびに加筆を行い、より完璧なものにしようと努めました。そして、自らの研究が、同志たちの協力を得て更に発展することを期待していました。これらの点からも、信友の学問に対する誠実な姿勢が窺えます。

写本について

本書には30種弱の写本が存在することが知られています。その中には、『神名帳』の対校本数を22本とするものと23本とするものがあります。これは、研究期間の長さから、増補の結果とも考えられます。また、対校本の掲出方法の違いなどから、大きく2つの系統に分類することができ、本書自体に『神名帳考証』と題するものと『神名帳考』と題するものの2種が存在した可能性も指摘されています。

まとめ

『神名帳考証土代』は、伴信友が長年の研究成果を注ぎ込んだ、神社研究における重要な著作です。その詳細な考証、原典に忠実な姿勢、そして学問に対する誠実な態度は、後世の研究者にも大きな影響を与えました。本書は、日本の神社史、そして国学研究における重要な資料として、今後もその価値を失うことはないでしょう。

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