神呪寺

神呪寺：歴史と信仰が織りなす霊山寺院

神呪寺は、兵庫県西宮市甲山町の甲山の山麓に位置する、真言宗御室派の別格本山です。通称「甲山大師」と呼ばれ、新西国三十三ヶ所の霊場の一つとしても広く知られています。本尊は如意輪観音で、その歴史は古く、平安時代初期まで遡ります。

歴史：皇族と空海の関わり

神呪寺の創建は、828年（天長5年）に第53代淳和天皇の第四妃、如意尼（真名井御前）が開基したと伝えられています。如意尼は深い信仰心から出家を決意し、宮中をひそかに抜け出して修行の旅に出ました。その道中、空海の協力を得て、甲山で3年間の厳しい修行を行い、その後、空海によって如意輪観音像が造られました。この像は現在も神呪寺の秘仏として大切に護られています。

『元亨釈書』や『帝王編年記』などの史料には、創建に関する記述があり、空海との関わりを示す説話も残されています。これらの史料によると、創建当初は「摩尼山神呪寺」という名称で、別名「感応寺」とも呼ばれていたようです。また、寺号の由来は、甲山を神聖な山と崇める信仰から「神の寺（かんのじ）」とされたことに由来すると言われています。「神呪」とは呪文や真言を意味し、仏の真言を表しています。

鎌倉時代初期には源頼朝が再興に尽力し、南北朝時代以降は幾度となく合戦の舞台となった歴史も持ちます。戦国時代の有岡城の戦いでは多くの堂塔が焼失するなど、幾多の苦難を乗り越えて現在に至っています。

文化財と信仰：秘仏と霊験あらたかな観音

神呪寺には、数多くの文化財が保存されています。中でも、本尊の如意輪観音坐像は、重要文化財に指定されており、大阪府観心寺、奈良県室生寺の如意輪観音像と並んで「日本三如意輪観音」の一つに数えられています。秘仏とされているこの如意輪観音は、「融通さん」「融通観音」と呼ばれ、家業繁栄や商売繁盛のご利益があると信仰されています。毎年5月18日には融通観音大祭が開催され、本尊の開扉が行われます。

境内には、大師堂に祀られている弘法大師像も信仰を集めています。大師58歳の姿で造られたこの像は、「厄除大師」「甲山大師」として親しまれています。

境内：歴史と自然が調和する空間

神呪寺の境内は、歴史を感じさせる建造物と、自然豊かな環境が調和した空間が広がっています。本堂、弁天堂、大師堂、庫裏などの主要な建物に加え、枯山水庭園、十三重石塔、不動堂、恵光堂、茶堂、鐘楼、納骨堂、多宝塔など、多くの建造物が点在しています。また、稲荷社、白髭大明神社、善女龍王社、地蔵堂、詠歌堂、西国三十三所石仏群、役行者像、弁財天社、弁天池といった様々な社殿や施設も整備されています。仁王門は西宮市指定有形文化財にも指定されており、三間一戸八脚門という珍しい造りとなっています。

境内には、寛政10年（1798年）に四国八十八ヶ所の砂を持ち帰って作られた「甲山八十八ヶ所」もあります。

神呪寺には、平安時代の木造聖観音立像、鎌倉時代の木造不動明王坐像、木造弘法大師坐像なども重要文化財として残されています。また、境内にある『神呪寺縁起絵巻』も西宮市指定有形文化財に指定されています。

その他：霊場と自然

神呪寺周辺には、九想の滝や、廣田神社祭神と役行者が邂逅したとされる「廣田明神影向岩」など、霊験あらたかな場所も多く存在します。これらの場所は、神呪寺の信仰と歴史を深く理解する上で重要な要素となっています。

アクセス

神呪寺へのアクセスは、阪急甲陽線甲陽園駅から徒歩30分、または阪神バス、阪急バスを利用できます。

神呪寺は、歴史、信仰、そして自然が織りなす、魅力あふれる寺院です。訪れる人々を、静寂と神秘の世界へと誘います。

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