神大市比売

神大市比売命：農耕と市場を司る女神

神大市比売命（かむおおいちひめ）は、『古事記』に記述のある日本の女神です。須佐之男命の妻として知られ、農耕や食料、そして市場と深く関わりのある神として信仰されてきました。その神名は、「神々しい」「偉大」「立派な市（物々交換の場）」といった意味合いを持ち、神格の尊さと市場との結びつきを示唆しています。

系譜と神格

神大市比売命は、大山津見神を父として誕生しました。大山津見神は山神として知られ、陸海を問わず交易の場を提供する力を持つとされています。神大市比売命が市場の神として信仰されるのは、この父神の影響が大きいと考えられています。

須佐之男命との間に、大年神と宇迦之御魂神（稲荷神）をもうけました。大年神と宇迦之御魂神はどちらも農耕に深く関わりのある神々です。このことから、神大市比売命自身も農耕神、食料神としての側面を持つと考えられます。母神である神大市比売命から、子神である大年神と宇迦之御魂神へと、豊穣と恵みの信仰が受け継がれていると言えるでしょう。

祀られる神社と信仰

神大市比売命を祀る神社は全国に点在していますが、須佐之男命やその子神である大年神、宇迦之御魂神を祀る神社と比較すると、その数は少ないのが現状です。

代表的な神社としては、静岡浅間神社内の大歳御祖神社（静岡県静岡市）、市神社（愛知県津島市）、湯田神社（三重県伊勢市）、市比賣神社（京都府京都市）、高津宮（大阪府大阪市）、大内神社（岡山県備前市）、稲荷神社（岡山県倉敷市）などが挙げられます。これらの神社では、神大市比売命が独自の信仰を集め、地域社会に貢献してきた歴史が見て取れます。

なお、多くの神社では、大歳御祖神という神名で祀られているケースが多いことも特徴です。

考察：神大市比売命と古代社会

奈良県桜井市にある箸墓古墳には、「大市墓」の銘があります。3世紀中頃の築造と推定されており、この銘文は神大市比売命との関連性を示唆する重要な手がかりとなっています。古代において、神大市比売命がいかに重要な役割を担っていたのかを物語っていると言えるでしょう。

また、伏見稲荷大社の上社祭神である大宮能売大神は、アメノウズメと同一視されることもありますが、『二十二社註式』や『稲荷神社考』では、大市姫命（神大市比売命）に比定されています。このことは、神大市比売命の信仰が、稲荷信仰とも深く関わっていた可能性を示しています。

まとめ

神大市比売命は、農耕、食料、そして市場という、古代社会の生活基盤を支える重要な要素と深く結びついた女神です。その神格は、父神である大山津見神や、子神である大年神・宇迦之御魂神との関係性からも理解することができます。限られた数の神社に祀られていますが、その信仰は、古代から現代まで人々の生活に寄り添い、豊穣と繁栄をもたらす存在として、人々の心に深く刻まれてきたと言えるでしょう。今後の研究により、更に多くのことが明らかになることを期待したいです。

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