箸墓古墳

箸墓古墳：古代史を彩る謎多き巨墳

箸墓古墳は、奈良県桜井市に位置する、初期の前方後円墳として知られています。この古墳は、その規模の大きさや特異な形状から、古代史研究において重要な位置を占めています。宮内庁によって倭迹迹日百襲姫命の墓として管理されていますが、邪馬台国の女王卑弥呼の墓とする説も根強く存在し、その被葬者を巡っては、現在も議論が続いています。

古墳の概要と特徴

箸墓古墳は、奈良盆地の東南部に広がる大和・柳本古墳群の一角、纒向古墳群の中心的な存在です。前方後円墳としては最古級に属すると考えられており、その築造年代は、出土した土器の年代測定から、3世紀中頃から後半とする説と、4世紀中期以降とする説があります。古墳の全長は約278メートル、後円部の直径は約150メートル、高さは約30メートルを誇り、その巨大さは周囲の景観を圧倒します。

特徴的な墳形

前方部が途中から大きく開く撥型の形状は、古い段階の前方後円墳の特徴を示しており、箸墓古墳が初期の古墳であることを示唆しています。また、後円部は四段に築成され、その上に小円丘が乗るという特異な構造も持っています。これらの特徴は、後の古墳の模範となった可能性が指摘されています。

箸墓古墳の名の由来と伝承

古墳の名前の由来は、倭迹迹日百襲姫命が、陰部に箸が突き刺さり絶命したという説話に由来します。この説話は、『日本書紀』にも記されており、一般に「三輪山伝説」として知られています。また、古墳の築造については、「大坂山の石で、昼は人が作り、夜は神が作った」という伝承も残っています。

築造年代を巡る議論

箸墓古墳の築造年代は、考古学的な年代決定論と、炭素14年代測定法によって議論されています。出土した土器の年代から3世紀中頃とする説がある一方で、炭素14年代測定法の誤差や古墳の規模などから、4世紀中期以降とする説も存在します。特に、古墳の築造年代と、卑弥呼の没年との関連性については、様々な見解が出されており、決着を見ていません。

炭素14年代測定法の課題

炭素14年代測定法は、有機物の年代測定に用いられる手法ですが、近年、実年代より古く推定されることが明らかになっており、この誤差を考慮する必要性が指摘されています。また、周濠から出土した土器の炭化物が、必ずしも古墳の築造年代を正確に示しているとは限らないという点も、議論を複雑にしています。

被葬者論争：倭迹迹日百襲姫命か、卑弥呼か？

宮内庁は、箸墓古墳を倭迹迹日百襲姫命の墓として管理していますが、考古学の世界では、邪馬台国の女王卑弥呼の墓とする説も根強く存在します。この説は、笠井新也の研究を起源とし、古墳の規模や年代が、卑弥呼の墓の条件に合致すると主張されています。

卑弥呼説の根拠と反論

卑弥呼説の根拠としては、古墳の後円部の直径が、魏志倭人伝に記された卑弥呼の墓の大きさとほぼ一致すること、また古墳が大規模な古墳の中では最古級に属することなどが挙げられます。しかし、この説に対しては、魏志倭人伝の記述との矛盾や、築造年代のズレなど、様々な反論も存在します。

倭迹迹日百襲姫命説の根拠

一方、倭迹迹日百襲姫命説は、宮内庁の指定によるものですが、この人物が『日本書紀』や『古事記』に登場することから、一定の歴史的根拠があると考えられます。ただし、考古学的な証拠は乏しく、古墳の被葬者を特定するには至っていません。

出土遺物と外表施設

箸墓古墳からは、葺石や特殊器台、特殊壺、都月型円筒埴輪などが出土しており、古墳時代初頭の文化を物語っています。特に、特殊器台や特殊壺は、古墳時代の祭祀を解明する上で重要な資料となっています。また、墳丘の裾からは、玄武岩の板石が見つかっており、竪穴式石室が存在した可能性が指摘されています。

馬具の出土と騎馬文化

周濠からは、木製の輪鐙（馬具）が出土しており、4世紀初頭頃のものと考えられています。この発見は、日本における騎馬文化の流入を従来よりも古く修正するものであり、古代史研究に新たな視点を提供しました。

古墳の意義と評価

箸墓古墳は、その規模や構造、出土遺物から、古墳時代を代表する古墳の一つとして、古代史研究において重要な位置を占めています。この古墳の出現は、古墳時代の幕開けを告げる出来事であり、後の古墳に大きな影響を与えたと考えられています。また、箸墓古墳を巡る議論は、日本の古代史を読み解く上で、避けて通れない課題と言えるでしょう。

近年の調査と今後の展望

近年、箸墓古墳の周辺部で発掘調査が行われ、墳丘の構造や規模について、新たな知見が得られています。また、科学的な年代測定法の発展により、築造年代についても、より正確な推定が可能になることが期待されています。今後も、箸墓古墳の研究は継続され、その全貌が明らかになる日が来ることを願います。

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