神戸海軍操練所

神戸海軍操練所：日本の近代海軍の夜明けと神戸の変貌

1864年、攘夷論の高まりと大阪湾防衛の必要性から、幕府は神戸に海軍士官養成機関である神戸海軍操練所を設立しました。これは、幕府軍艦奉行・勝海舟の提言によるものでした。わずか1年ほどの短い期間でしたが、日本の近代海軍、そして神戸市の発展に大きな影響を与えた重要な施設です。

生田川河口の小さな操練所から

勝海舟は、14代将軍徳川家茂に直談判し、生田川河口（現在の神戸市中央区新港町周辺）への操練所開設許可を得ました。従来の幕府や藩の枠を超えた、日本全体にとっての海軍機関という壮大な構想を彼は抱いていたのです。

操練所の建設は、地元の網屋吉兵衛の船たで場（船底を焼く施設）を利用して行われました。1864年2月には外周の土手を除き完成。約5.7haの敷地には、操練に必要な建物や施設が整備されました。後にこの地は外国人居留地となり、神戸港発展の礎となりました。

幕府瓦解を予見した勝海舟と集う人材

勝海舟は、既に幕府の瓦解を予見していました。そのため、倒幕派の志士も多く操練所に集まりました。薩摩藩の伊東祐亨、土佐藩の北添佶摩、望月亀弥太、近藤長次郎らがその代表です。その他にも、後の外務大臣となる陸奥宗光もこの操練所に関係しています。また、勝海舟の私塾「海軍塾」（神戸塾とも呼ばれる）には、坂本龍馬が塾頭として参加していました。海軍塾は操練所とは別組織でしたが、多くの優秀な人材を輩出し、近代日本の海軍に貢献しました。

操練所の存在は、それまで漁村だった神戸の街を港町へと変貌させ始めました。勝海舟は、その発展を見越して、世話になった地元の人々に土地の購入を勧めたという逸話も残っています。

短命に終わった操練所

しかし、神戸海軍操練所の活動は長くは続きませんでした。1864年、長州藩の挙兵に関わった勝海舟は軍艦奉行を罷免されます。さらに、操練所には長州藩に共感する生徒が多く、反幕府的な色彩が強かったことから、翌1865年3月には閉鎖を余儀なくされました。

海軍塾との関係

近年、研究者からは、幕府公認の神戸海軍操練所と、勝海舟個人が運営した私塾「海軍塾」は、明確に区別して考えるべきという意見が出ています。両者の関係性については、今後の更なる研究が求められています。

神戸海軍操練所の遺産

神戸海軍操練所は、わずか1年間の活動でしたが、日本の近代海軍の礎を築き、神戸の発展に大きく貢献しました。その歴史は、現在も神戸市中央区新港町に残る跡碑に刻まれ、日本の近代史を語る上で重要な存在となっています。 操練所の設立に尽力した勝海舟の優れた先見性と、そこに集った人材の能力、そして時代の流れが複雑に絡み合い、日本の歴史に重要な一頁を刻んだのです。 現在、京橋筋南詰には神戸海軍操練所跡碑があり、その歴史をしのぶことができます。

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