神戸絢

神戸 絢

神戸 絢（かんべ あや、1879年〈明治12年〉2月16日生 - 1956年〈昭和31年〉2月23日没）は、日本の音楽家であり、ピアニスト、そして音楽学校の教授として多大な貢献をしました。彼女はまた、神戸 絢子という別名でも知られています。

日本の西洋音楽導入期において、神戸絢は最も早い世代のピアニスト（洋琴家）として歴史に名を刻んでいます。東京音楽学校（旧制、現在の東京芸術大学の前身）を卒業後、母校である同校で実に30年を超える長きにわたり、次世代の音楽家たちの指導にあたりました。その功績が認められ、従四位勲四等に叙されています。

人物と背景

神戸絢は東京に生まれました。彼女の実父は、かつて鳥取藩の士族であった梁田正直氏で、その長女として生を受けました。後に、第百銀行の監査役を務めていた神戸信義氏の養女となりました。神戸信義氏は元岡山藩の士族であり、藩主であった侯爵池田章政氏の家扶でもありました。

その後、明治3年7月生まれで、神戸信義氏の養子となっていた神戸順三郎氏と結婚します。順三郎氏は当時、姫路水力電気の技師長を務めていました。二人の間には長女の貞子氏（明治34年3月生まれ）が生まれました。一家は、1914年（大正3年）に分家しています。

音楽教育とキャリア

神戸絢の音楽人生は、8歳の時に女子仏学校（後の仏英和学校）に入学したことから始まります。そして10歳を迎えた頃、初めてフランス人の修道女からピアノの基礎を学びました。この出会いが、彼女のその後の道を決定づけることになります。

17歳で文部省が実施するフランス語教員検定試験に合格するという語学力も持ち合わせていた絢は、その才能を見込まれ、東京音楽学校本科（現在の東京芸術大学音楽学部）に特別に抜擢されました。そこで彼女はピアノ科を専攻し、当時同校で教鞭を執っていた著名な音楽家ラファエル・フォン・ケーベルに師事し、高度な演奏技術と音楽理論を学びました。

1899年（明治32年）、神戸絢は東京音楽学校専修部を卒業しました。その際の卒業生総代を務めるなど、学生時代から優れた才能を発揮していました。卒業後、すぐに同校の授業補助として教育の現場に足を踏み入れます。そして1902年（明治35年）3月には、助教授に昇任しました。

さらなる研鑽を積むため、1907年（明治40年）、文部省が実施する外国留学生としてフランスへの留学の機会を得ます。音楽の本場パリに渡り、パリ音楽院で高名なイシドール・フィリップのもとで学びました。この留学は、彼女に深い音楽的知見と、当時の最先端であったフランス式のピアノ演奏技術をもたらしました。

2年後の1909年（明治42年）6月13日に帰国した神戸絢は、東京音楽学校の教授に就任します。留学で体得したフランス式の演奏技法や音楽観を日本の音楽教育に導入し、多くの学生に影響を与えました。日本のピアノ界におけるフランス流儀の普及に貢献したことは、彼女の重要な功績の一つです。

教育活動の傍ら、1918年（大正7年）5月からは、将来の皇太子妃となることが決まっていた良子女王（後の昭和天皇の皇后、香淳皇后）に対し、御学問所にてピアノの個人教授を務めるという栄誉にも浴しました。

1930年（昭和5年）3月、神戸絢は高等官二等に昇叙されるとともに、長年教授を務めた東京音楽学校を退官しました。しかし、その後も引き続き同校の講師として、教育への情熱を持ち続け、後進の指導にあたりました。

日本の洋楽黎明期を代表する教育者・演奏家として、神戸絢は多くの音楽家を育成し、日本の音楽界の発展に尽力しました。彼女の音楽教育における貢献は、現在も高く評価されています。

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