神殿の谷

シチリア島のアグリジェント：神殿の谷の世界

シチリア島南部のアグリジェント郊外に位置する神殿の谷（Valle dei Templi）は、古代ギリシャ文明、特にマグナ・グラエキア時代の芸術と建築の粋を集めた、世界的に重要な考古遺跡です。1997年にはユネスコの世界遺産に登録され、イタリアの国定史跡にも指定されており、その歴史的・文化的価値は高く評価されています。

神殿の谷という名称は、やや不正確です。実際には、アグリジェント郊外の尾根上に、7つの壮大なドーリア式神殿遺跡が点在しています。これらの神殿は、それぞれ異なる神々に捧げられ、紀元前5世紀を中心とした建設時期に、異なる歴史的背景と建築様式を示しています。

これらの神殿の発掘と修復には、18世紀から19世紀にかけて活躍した考古学者、ドメニコ・アントニオ・ロ・ファゾ・ピエトラザンタ（別名セラディファルコ公爵）が大きく貢献しました。彼の尽力によって、私たちは今日、これらの貴重な遺跡を目にすることができるのです。

主要な神殿遺跡

神殿の谷には、以下のような主要な神殿遺跡が存在します。


ユーノー神殿: 紀元前5世紀に建設され、結婚祝宴にも使用されていたと推測されています。紀元前406年にはカルタゴ軍によって焼き払われたという悲劇的な歴史も持っています。

コンコルディア神殿: 近隣で発見されたラテン語の碑文からその名が付けられました。紀元前5世紀に建設され、6世紀にはキリスト教の聖堂に転用されたため、他の神殿に比べて保存状態が良好です。

ヘラクレス神殿: アグリジェントで特に崇敬されたヘラクレスに捧げられた神殿で、谷の中では最も古い神殿の一つと考えられています。しかし、地震によって大きく損壊し、現在は8本の円柱が残るのみです。

ゼウス・オリンピア神殿: 紀元前480年、カルタゴとの戦いに勝利したことを記念して建設されました。巨大なアトラス像（アトラスはギリシャ神話の巨人）が特徴的でした。

カストル・ポリュデウケス神殿: 現在では4本の柱しか残っていませんが、近代アグリジェントの象徴として広く知られています。

ウルカヌス神殿: 紀元前5世紀に建設され、かつては谷で最も壮麗な神殿であったと考えられていますが、時間の経過と自然現象によって、現在では最も損壊した神殿の一つとなっています。

* アスクレピオス神殿: 古代の市壁から離れた場所に位置し、病気平癒を祈願する巡礼者たちの目的地でした。


神殿の谷には、神殿遺跡以外にも、「テロンの墓」と呼ばれる大きな凝灰岩の記念建造物があります。これは、第二次ポエニ戦争で犠牲となったローマ人たちを称えて建てられたと推測されています。

世界遺産登録基準

神殿の谷は、以下のユネスコの世界遺産登録基準を満たしているため、世界遺産に登録されました。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。


神殿の谷は、単なる遺跡群ではなく、古代ギリシャ文明の輝きと歴史の重みを肌で感じることができる、貴重な場所です。シチリア島を訪れる際には、ぜひ訪れて、その壮大さと歴史的意義を体感してみてください。

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