神祇令

神祇令とは

神祇令は、古代日本の律令制度において、国家祭祀に関する規定をまとめた法令です。具体的には、『大宝律令』および『養老律令』に編目の一つとして存在しました。しかし、現存するのは『養老律令』に収録されたもののみです。

成立と特徴

神祇令の成立時期については、近江令の時代に遡るとする説もありますが、現在では、689年の飛鳥浄御原令によってその大部分が成文化されたとする説が有力です。この法令は、唐の「祀令」を参考に作成されましたが、単なる模倣ではありません。祭祀の運営や管理といった技術的な側面では類似が見られるものの、日本と唐の神観念の違いから、独自の解釈と取捨選択が行われました。

例えば、唐の祀令では天帝などの漢土の神々が祭祀の対象でしたが、神祇令では日本の古来の神々が対象とされました。また、唐の祀令に規定されていた宗廟祭祀は、神祇令には規定されませんでした。さらに、大祓や大嘗祭といった日本独自の祭祀儀礼に関する規定が含まれている点も、神祇令の大きな特徴です。これらの祭祀は唐の祀令には見られません。

幣帛についても、唐の祀令では動物供犠が重視されていましたが、神祇令では動物供犠の規定がなく、肉食禁忌の観点から避けられていたと考えられます。その代わりに、神祇令では祈年祭や月次祭、新嘗祭などで、全国の官社に対して神祇官から幣帛を配る班幣祭祀が規定されました。これも唐の祀令には見られない、日本独自の形態です。

このように、神祇令は日本の伝統的な神祇信仰を基盤としつつ、その形式においては唐の祀令を参考にしたものと考えられます。

内容

神祇令は全20条から構成されています。その内容は大きく分けて、以下のようになります。

四時恒例祭（1条～9条）

年間を通して行われる祭祀について規定しています。

1条 天神地祇条: 天神地祇は神祇官が祀ることを定める
2条 仲春条: 2月に祈年祭を行う
3条 季春条: 3月に鎮花祭を行う
4条 孟夏条: 4月に神衣祭、大忌祭、三枝祭、風神祭を行う
5条 季夏条: 6月に月次祭、鎮火祭、道饗祭を行う
6条 孟秋条: 7月に大忌祭、風神祭を行う
7条 季秋条: 9月に神衣祭、神嘗祭を行う
8条 仲冬条: 11月に相嘗祭、鎮魂祭、大嘗祭（新嘗祭）を行う
9条 季冬条: 12月に月次祭、鎮火祭、道饗祭を行う

即位儀礼と斎戒（10条～14条）

天皇の即位に関する儀礼と、祭祀を行う際の斎戒について規定しています。

10条: 天皇即位の際の祭祀と潔斎期間（散斎1ヶ月、致斎3日）を定める
11条: 致斎と散斎の内容を定める
12条: 潔斎期間の長短による祭祀の区分（大祀、中祀、小祀）を定める
13条: 践祚の日に中臣氏が「天神の寿詞」を奏上し、忌部氏が神璽の剣鏡を奉ることを定める
14条: 大嘗祭について規定する

祭祀の管理運営（15条～17条）

祭祀の実施にあたっての手続きや、幣帛の管理などについて規定しています。

15条: 祭祀を行う際の神祇官から太政官への通告や、関係役所への通知について定める
16条: 祭祀に用いる幣帛や飲食が規格通りであるかの検査を定める
17条: 諸社に臨時幣帛を奉る際の使者の任命方法を定める

大祓と関連規定（18条～19条）

大祓の儀式と、その際に供進する物品について規定しています。

18条: 大祓の儀式次第について定める
19条: 大祓の際に各郡、各戸、国造が供進すべき物品を定める

神戸の租庸と田租（20条）

神戸の租庸と田租、神税の用途と管理について規定しています。

20条: 神戸の租庸及び田租・神税の用途と管理の規定を定める

律令祭祀（神祇令に規定された主な祭祀）

祈年祭（神祇官）
鎮花祭（疫病退散祈願、大神神社、狭井神社）
神衣祭（天照大神に御衣を奉る、伊勢神宮）
大忌祭（広瀬神社）
三枝祭（率川神社）
風神祭（竜田神社）
月次祭（深夜に「神今食」）
鎮火祭（「宮城四方角」）
道饗祭（「京四方大路最極」）
神嘗祭（伊勢神宮）
相嘗祭（特定諸社）
大祓（朱雀門）
天神地祇祭（臨時）
一代一度大嘗祭（臨時）

まとめ

神祇令は、律令国家における祭祀を体系的に定めた重要な法令です。唐の祀令を参考にしながらも、日本の神祇信仰に基づいて独自の発展を遂げた点が大きな特徴です。この法令は、古代日本の国家祭祀のあり方を理解する上で、欠かすことのできない資料となっています。

参考文献

國學院大學日本文化研究所 編『神道事典』弘文堂、1999年
岡田莊司 編『日本神道史』吉川弘文館、2010年

もう一度検索