神話物語群

アイルランド神話物語群：神々と英雄の叙事詩

神話物語群（Mythological Cycle）は、アイルランド神話の主要なサイクルの一つであり、キリスト教伝来以前のアイルランドにおける異教の神話を描いた物語群です。吟遊詩人によって語り継がれた物語や詩は、中世の写本や歴史書に記録され、現代に伝えられています。これらの物語は、アイルランドの歴史、文化、そして精神性を理解する上で欠かすことのできない要素です。

来寇の伝承：アイルランドの起源

神話物語群は、ゲール語を話すミレー族の来寇を中心に、それ以前の様々な来寇者たちの物語を語ります。これらの来寇者の中には、歴史的な移民だけでなく、トゥアハー・デ・ダナン族のように魔法の力を持つ神々も含まれています。彼らは、次第に神から人へと格下げされ、アイルランドの地に足を踏み入れた者たちとして語られるようになりました。

洪水以前の住人たち

アイルランドの最も初期の住人として知られるのは、ケスィル率いるヴァン族です。ケスィルはノアの孫娘であり、大洪水から逃れるために、鮭に姿を変えたフィンタンの上に乗って難を逃れたと伝えられています。フィンタンはその後も生き続け、様々な姿に変身しながら、アイルランドの歴史を語り継ぎました。

17世紀の歴史家ジェフリー・キーティングは、失われた原典から、ケスィル以外の伝承も記録しています。例えば、聖書の登場人物であるカインの娘たちが、アイルランドを最初に見た人々であるという詩や、バンバと呼ばれる女性が率いる集団がアイルランドの最初の住民であったという伝説などが存在します。また、嵐によってイベリアから流れ着いた漁師たちがアイルランドを発見し、植民したという伝承もあります。

洪水後の来寇者たち

『アイルランド来寇の書』によれば、大洪水の後、アイルランドは300年間無人の地でした。しかし、キーティングは異なる伝承を記録しています。ニネヴェのニヌスの血縁者がアイルランドを訪れたという詩や、フォモールと呼ばれる半神人たちがアイルランドに植民し、200年間住んだという伝承があります。フォモールは、パルホーロン率いる一族によって打ち倒されたとされています。

パルホーロン族は、アイルランドに家畜や家屋を持ち込んだ最初の一族とされています。彼らはギリシアからシチリア、イベリアを経てアイルランドにたどり着き、センマグと呼ばれる平原に定住しました。しかし、彼らの一族は伝染病によって全滅し、トゥアンという一人のみが生き残りました。

ネヴェズ族は、パルホーロン族の後にアイルランドにやってきた一族です。彼らはスキュティアから来たギリシア人であり、44隻の船で航海しましたが、アイルランドに到達したのはわずか1隻でした。ネヴェズの時代には、新たな湖や平野が開拓されました。ネヴェズ族はフォモールと戦いましたが、最終的には海の氾濫によって滅ぼされてしまいました。

フィル・ヴォルグ族とトゥアハ・デ・ダナーン族

フィル・ヴォルグ族は、アイルランドに初めて王権を確立し、法制度を整えた一族です。彼らは、ベルガエ族やIverni族と関連付けられることもあります。

トゥアハ・デ・ダナーン族は、「ダーナ女神の一族」を意味し、フィル・ヴォルグ族をアイルランドから追い出しました。彼らは北の地からやってきて、船を燃やして後戻りできない覚悟を示しました。トゥアハ・デ・ダナーン族は、マグ・トゥレドの戦いでフィル・ヴォルグ族を破りましたが、王ヌアザは腕を失い、王位を退きました。その後、ブレスが王位を継ぎましたが、暴君となり、トゥアハ・デ・ダナーン族をフォモールの圧政下に置きました。ヌアザは銀の義手を得て王位を回復し、再びフォモールと戦いました。ヌアザはフォモールの王バロールに倒されましたが、バロールはヌアザの孫であるルーによって倒されました。

トゥアハ・デ・ダナーン族は、戦車やドルイド制度をアイルランドにもたらしたとされています。

ミレー族の到来

トゥアハ・デ・ダナーン族は、後にミレー族によってアイルランドから追い出されました。ミレー族は、イベリアに植民したミレの子孫です。ミレの息子たちは、イトの死後、アイルランドへの侵略を開始しました。彼らはトゥアハ・デ・ダナーン族に勝利し、アイルランドを支配しました。戦いに敗れたトゥアハ・デ・ダナーン族は、妖精の国であるティル・ナ・ノーグへ移住したと伝えられています。

神話物語群は、アイルランドの起源、神々や英雄の活躍、戦い、そして魔法が織りなす壮大な物語です。これらの物語は、アイルランドの文化と歴史に深く根ざしており、現代においても人々に影響を与え続けています。

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