神風 (映画)

神風（KAMIKAZE）

映画『神風』は、1986年にフランスで製作された異色のサスペンス映画です。著名な映画監督リュック・ベッソンがプロデューサーとして名を連ね、本作が初の長編監督作品となったディディエ・グルッセがメガホンを取りました。

あらすじ

物語の中心となるのは、かつて研究機関に勤めていたアルベールという名の男です。彼は科学者としては類まれなる才能を持ちながらも、組織の都合による事業縮小を理由に突然職を失います。職を離れ、日々の生活から張り合いを失ったアルベールは、次第に自宅でテレビを見ることに没頭するようになります。しかし、彼の精神は徐々に平衡を失い、画面に映し出されるテレビ出演者たちに対し、説明のつかないほど激しい憎悪の感情を抱くようになっていきます。

その天才的な頭脳を歪んだ目的に向けたアルベールは、驚くべき計画を実行に移します。彼は自宅のテレビ受信アンテナを独自に改造し、そこに特殊な発射装置を接続しました。この装置は、なんと生放送中のテレビ番組に映っている出演者を、遠隔から狙撃することを可能にするものでした。さらにこの犯行の特異な点は、被害者の体には弾丸が貫通したかのような痕跡が残るにもかかわらず、現場や被害者の体内から実際の弾丸が一切発見されないという点です。これは、物理的な証拠を残さない、まさに「完全犯罪」でした。

次々と発生するこの不可解な事件に、有能なロマン刑事が捜査に乗り出します。常識を超えた犯行手口に頭を悩ませながらも、ロマン刑事は天才的な狂人が仕掛けたこの前代未聞の犯罪の謎を解き明かすべく、困難な捜査を開始するのでした。

製作背景とエピソード

本作は、リュック・ベッソンが自身が監督した過去作、例えば『最後の戦い』や『サブウェイ』で助監督を務めたディディエ・グルッセを、彼の監督デビュー作として抜擢し、自身は製作という形で全面的にサポートした作品です。信頼するスタッフを監督として送り出すという、ベッソンのプロデューサーとしての側面が強く表れています。

また、本作はキャストにおいても特筆すべきエピソードがあります。ロマン刑事を演じた名優リシャール・ボーランジェは、実の娘であるロマーヌ・ボーランジェと本作で初めて共演しました。当時、女優としてのキャリアをスタートさせたばかりのロマーヌにとって、『神風』は記念すべき映画デビュー作となりました。

主要キャスト

アルベール：ミシェル・ガラブリュ
ロマン刑事：リシャール・ボーランジェ
* ジュリー：ロマーヌ・ボーランジェ

天才的な頭脳を持つ男の狂気と、それを追う刑事の姿を描いた『神風』は、斬新なアイデアと独特の雰囲気が魅力のフレンチ・スリラーです。

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