神風タクシー

神風タクシーとは、1950年代後半（昭和30年代）の日本で、交通法規を無視した無謀な運転をしていたタクシーのことです。

概要

1950年代（昭和30年代前半）の日本は、モータリゼーションの進展により交通量が急増し、道路渋滞が頻発していました。当時のタクシードライバーの中には、歩合制の給与体系やノルマ達成のため、少しでも多くの客を乗せ、目的地へいち早く到着させようと、速度制限無視、急停車、急発進、赤信号無視、強引な追い越しなど、危険な運転を行う者が後を絶ちませんでした。

その無謀な運転ぶりは、まるで「神風特別攻撃隊」のようだと揶揄され、いつしか人々はそれらのタクシーを「神風タクシー」と呼ぶようになりました。この名称がいつ、誰によって名付けられたのかは定かではありませんが、「週刊新潮」の記事がきっかけであるという説が有力です。

このような危険運転の背景には、タクシードライバーの低い固定給やノルマ制といった劣悪な労働環境がありました。彼らは生活のために、危険を顧みず乗客を奪い合うように運転していたのです。

1958年（昭和33年）1月、東京都文京区本郷の東京大学赤門前で、東京大学の学生でサッカー部主将を務めていた青年が、暴走する神風タクシーにはねられ、命を落とすという痛ましい事故が発生しました。この事故を受け、数日後の有力紙には「聞いてくれ『魚勝』の歎きを」という見出しで記事が掲載され、息子を突然失った鮮魚店主の悲痛な叫びが社会の注目を集めました。この事件をきっかけに、交通安全問題への関心が一気に高まり、神風タクシーは大きな社会問題として認識されるようになりました。その後、タクシー労働組合などの運動や、社会全体の意識の高まりによって、神風タクシーは徐々に姿を消していきました。

1959年（昭和34年）8月11日には、優良運転者に対する個人タクシーの認可が開始されました。これもまた、神風タクシーが減少した要因の一つと考えられています。さらに、1964年（昭和39年）の東京オリンピック開催決定を機に、国を挙げて日本のイメージアップを図るため、道路交通法が厳格に運用されるようになり、警察による取り締まりも強化されました。これにより、神風タクシーは一掃されることとなりました。

神風タクシーを題材とした作品

神風タクシーは、その社会現象的なインパクトから、様々な作品の題材としても扱われてきました。

ファンキーハットの快男児二千万円の腕：1961年（昭和36年）公開の千葉真一主演の日本映画。事件解決の鍵を握る人物として、神風タクシーの運転手が登場します。
巨人の星：主人公の星飛雄馬がタクシーに乗車する場面で、急いで欲しいとわがままを言う同乗者と運転手との間でトラブルが発生します。しかし、飛雄馬がチップとして一万円札を提示すると、運転手は「一世一代の神風運転」をすると請け合います。これは、当時の時代背景とタクシー運転手の心情を象徴的に描いたシーンと言えるでしょう。
妖魔夜行：「魔獣めざめる」に収録されている「半妖怪のチェイス」では、妖怪「カミカゼタクシー」が登場します。この妖怪は、乗客に嫌な思いをさせられたタクシー運転手の恨みや、金儲けしか考えない運転手の欲望から生まれたという設定で、悪質なタクシー運転手の悪行を体現しています。乗客をいびることを好みますが、はっきりとした言葉には弱く、料金を受け取ると解放してしまいます。
クレイジータクシー：タクシードライバーとなり、時間内に乗客を目的地へ送り届けることを目的としたゲームです。ジャンプやドリフトなどのアクロバティックな運転をすればするほど、チップが増えるというゲームシステムは、神風タクシーを彷彿とさせます。
パンティ&ストッキングwithガーターベルト：第2話に登場するゴースト「クレイジー・クレイジー・キャビー」は、事故死したスピード狂のタクシードライバーが変化したものです。作中では、フリーウェイを暴走し、乗り物を乗り換えながらひたすらスピードを追求する姿が描かれています。

外部リンク

不況の都会を走る神風タクシー - NHK放送史
* 個人タクシーの誕生（全国個人タクシー協会）

もう一度検索

神風タクシー