福島第一原子力発電所事故の経緯

福島第一原子力発電所事故の経緯（2011年3月）

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、福島第一原子力発電所（以下、福島第一原発）に深刻な被害をもたらしました。この事故は、地震発生直後から3月末までの期間に、様々な危機的状況が発生し、国内外に大きな衝撃を与えました。以下に、事故発生から3月末までの経緯を詳細に記述します。

施設の損害状況

2011年4月12日時点での福島第一原発の損害状況は、以下の通りでした。

1～4号機: 受電設備の損傷により外部電源を喪失。
5、6号機: 受電経路である鉄塔の倒壊により外部電源を喪失。
* 全号機: 津波による地下の非常用交流電源水没、冷却用海水ポンプの破損。

事故の経過

3月11日：地震発生と全電源喪失

2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。この地震により、福島第一原発では1号機、2号機、3号機が自動停止しました。地震による揺れは、原発の耐震設計の最大値の4分の3程度でしたが、受電設備や鉄塔が損傷し、全号機が外部電源を喪失する事態となりました。

外部電源喪失後、非常用ディーゼル発電機が起動しましたが、地震発生から41分後の15時27分に到達した大津波によって発電機が水没。これにより、原子炉の冷却に必要な電力が全て失われ、非常用炉心冷却装置（ECCS）や冷却水循環系が機能停止しました。冷却機能が完全に失われたため、東京電力は15時42分頃、第1次緊急時態勢を発令し、関係各機関に特定事象発生の通報を行いました。

さらに、オイルタンクが津波で流出し、1号機と2号機は「冷却装置注水不能」と判断されました。この時点で、1号機から半径2kmの住民に避難指示、3km以内の住民に避難命令、10km圏内の住民には屋内退避指示が出されました。

3月12日：原子炉格納容器の圧力上昇と水素爆発

1号機の原子炉格納容器の圧力異常上昇により、原子力災害対策特別措置法15条に基づく特定事象発生と判断され、ベント作業（格納容器内の蒸気放出）が開始されました。しかし、作業は難航し、作業員が大量の放射線を浴びる事態となりました。

午後、原子力安全・保安院は、1号機周辺でセシウムが検出され、核燃料の一部が溶け出した可能性を発表しました。15時36分には、1号機の原子炉建屋で水素ガス爆発が発生。この爆発により、電源ケーブルが損傷し、複数の作業員が負傷しました。

また、2号機の非常用炉心冷却装置が一時的に作動していたことが確認されました。1号機への海水注入が開始されましたが、22時15分に発生した地震により、一時中断されました。

3月13日：3号機の冷却機能喪失と炉心溶融

1時23分、1号機への海水注入作業が再開されました。3号機の非常用炉心冷却装置が停止し、冷却水が沸騰して燃料棒が露出し始めたため、東京電力は「冷却装置注水不能」として通報。3号機でも格納容器内の圧力が上昇したため、蒸気を外部に放出する準備が進められました。

午前の段階で、3号機が炉心溶融に至っていたことが判明しました。1号機の原子炉圧力容器内部が海水で満たされていると判断され、3号機には海水注入が開始されました。しかし、1号機と3号機は十分な水位が確保できず、燃料が露出した状態が続きました。

3月14日：3号機の建屋爆発と2号機の冷却機能喪失

1時10分、汲み上げ場所の海水が少なくなったため、1号機と3号機への海水注水が停止されました。7時50分、3号機の「冷却機能喪失」により、原子力災害対策特別措置法第15条に基づく特定事象の通報が行われました。

11時1分に3号機の建屋が爆発。この爆発により、複数の作業員が負傷しました。また、2号機でも原子炉内部に冷却水を送り込むことができなくなり、「冷却機能喪失」として通報されました。19時45分、2号機の冷却水が大幅に減少し、燃料棒がすべて露出しました。20時頃から再び海水注入を開始し、水位は回復しました。

3月15日：2号機の圧力抑制室損傷と4号機の火災

0時、2号機の格納容器内の圧力を低下させるため初のドライウェルベントが実施されました。しかし、圧力が下がらなかったため、外部に流出していないと推定されました。2号機の圧力抑制室付近で異音が発生し、損傷した可能性が指摘されました。

また、4号機で火災が発生しました。7時頃、所員の90％にあたる約650人が、福島第二原発へ退避しました。正門では、過去最高の11.93ミリシーベルト/時のガンマ線が検出されました。

3月16日：4号機の再出火と通信途絶

5時45分頃、4号機で再び出火。10時以降、観測される放射線量が上昇し、正門で10ミリシーベルト/時を超えました。東京電力の協力企業が送電線の支柱を直す工事を行った際、社内専用の通信回線を誤って切断し、約9時間近く通信が途絶する事態となりました。

3月17日：ヘリコプターによる放水と消防車による放水

使用済み核燃料プールの水位が低下していた3号機に対し、陸上自衛隊のヘリコプターによる放水が行われました。また、警視庁機動隊の高圧放水車が3号機に対し、地上から最初の放水を行いました。自衛隊の消防車も3号機に対して放水を行いました。

3月18日：2号機への送電準備完了

各号機共用で使用済み核燃料を貯蔵するプールの水位が確保されていること、使用済み核燃料の乾式輸送容器建屋の外観に異常がないことが確認されました。2号機の非常用炉心冷却装置を復帰させるため、外部送電線からの予備電源変電設備への受電が完了し、建屋内への送電の準備が始まりました。

3月19日：東京消防庁による放水と放射性物質の検出

東京消防庁消防救助機動部隊が約350メートルにわたって手作業でホースをつなぎ、3号機に向けて放水を開始。早朝、6号機の非常用ディーゼル発電機が復旧。5号機には仮設の電源車が接続されました。事務所本館北側の空気中から、内部被曝の危険性が高い放射性ヨウ素131とセシウムなどが検出されました。この日、東京消防庁ハイパーレスキュー隊が長時間の連続放水を開始しました。

3月20日：5号機・6号機冷温停止と戦車派遣

5号機・6号機の使用済み核燃料プールの水温がほぼ定常温度に戻りました。3号機では、圧力容器周辺の温度が通常運転時より高いことが判明。陸上自衛隊の戦車派遣が決定しました。5号機は14時30分、6号機は19時27分に冷温停止状態となりました。

3月21日：放射線量の再上昇と生コン車到着

茨城県北部から東部にかけて、再び高濃度放射線量の南下が観測されました。4号機に放水が行われ、5号機・6号機の所内電源の一部が外部電源に切り替えられました。1 - 4号機放水口南側で採取した海水から放射性物質が検出されました。また、中央建設の生コン車が到着しました。

3月22日：病院患者らの避難完了と3号機中央制御室照明点灯

原発から半径20 - 30km圏内の病院の入院患者や福祉施設の入所者ら1,638人の避難が完了。3号機中央制御室の室内照明が点灯しました。1 - 6号機全てで外部電源を受電する準備が完了。中央建設の生コン車を引き返させました。

3月23日：1号機の状態把握とSPEEDI試算公表

計器類の復旧により、1号機では状態の把握が可能になり、原子炉内の温度が摂氏400度を越えていることが判明。SPEEDIを使った試算が事故後初めて公表され、12日間の放射性ヨウ素による内部被曝線量が、原発から20 - 30km圏で最高500ミリシーベルトになる可能性があると発表されました。しかし、政府は直ちに避難や屋内退避をする状況ではないとしました。

3月24日：作業員の被曝と海水汚染

3号機タービン建屋地下で作業を行っていた3人が、40 - 50分の間に173 - 180ミリシーベルト被曝しました。水溜まりには高濃度の放射性物質が含まれていました。1号機中央制御室の照明が点灯。また、中央建設の生コン車を再び呼び戻しました。

3月25日：海水汚染の深刻化と真水注入

1階南放水口から330メートル南側の地点で採取された海水から、炉規則告示濃度限度比1250.8倍のヨウ素131が検出されました。汚染された水が海に流れ出している可能性が指摘されました。1号機と3号機の圧力容器内への注水を海水から真水に切り替えました。

3月26日：海水汚染の拡大と2号機中央制御室照明復帰

1階南放水口付近で採取された海水の放射性物質の濃度が、前日の法令基準値の1250倍から1850倍へと上昇しました。2号機の中央制御室の照明が復帰しました。

3月27日：溜まり水からの高濃度放射線検出

経済産業省は、2号機の溜まり水から通常の原子炉の水の約1000万倍の濃度にあたる2.9ギガベクレル/ccの放射性物質であるヨウ素134が検出されたと発表しました。

3月28日：プルトニウム検出と立て坑の汚染水

東京電力は、福島第一原発敷地内で採取した土壌からプルトニウムを検出したと発表しました。また、1 - 3号機の海側にある立て坑に高濃度の放射線量の水が溜まっていることを発表しました。

3月29日：1号機への淡水注入開始と4号機中央制御室照明復旧

1号機への淡水注入が開始され、4号機の中央制御室の照明が復旧しました。3号機では、残留熱除去海水系配管のフランジを取り外した際に、作業員が水に被る事故が発生しました。

3月30日：2号機への淡水注入と4号機への放水

仮設の電動ポンプにより2号機への淡水の注水を開始しましたが、電動ポンプの不調により、消防ポンプに切り替えました。コンクリートポンプ車による4号機への放水が行われました。

3月31日：汚染水移送とフランス原子力企業との会談

3号機タービン建屋地下の水を復水器に排水するため、移送が開始されました。また、地下水から高濃度のヨウ素131を検出したことが発表されました。フランスの原子力企業アレヴァの代表が、経済産業大臣と会談し、専門家派遣の意向を示しました。

まとめ

福島第一原発事故は、地震発生直後から3月末までの間に、外部電源の喪失、冷却機能の完全喪失、建屋爆発、放射性物質の大量放出など、極めて深刻な状況が相次いで発生しました。この期間の対応は、その後の復旧作業においても重要な基礎となりました。事故の教訓を深く認識し、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、今後の原子力政策や防災対策に活かしていく必要があります。

この情報は、事故発生から2011年3月末までの出来事をまとめたものです。その後の状況については、別途調査する必要があります。

もう一度検索