秋山ちえ子の談話室

『秋山ちえ子の談話室』（あきやまちえこのだんわしつ）は、かつてTBSラジオを基幹局として、JRN系列で平日の朝に放送されていたラジオ番組です。

この番組は、エッセイストであり評論家でもある秋山ちえ子がマイクに向かい、毎回一つの題材を取り上げて自らの考えを述べるというスタイルが特徴でした。取り上げられるテーマは、その時々の出来事や社会問題、あるいは一冊の本など様々でしたが、常に主婦や女性の視点を大切にし、普段はテレビや新聞といった大手メディアであまり注目されないような、生活の中の素朴な疑問や怒り、話題に光を当て続けました。秋山ちえ子は、この番組を通して、ラジオという電波媒体を用いた独自のジャーナリズムを実践し、多くのリスナーの共感を呼びました。この長年にわたる功績が評価され、秋山は1991年に権威ある菊池寛賞を受賞しています。

番組の中でも特にリスナーの記憶に深く刻まれているのは、毎年8月15日の終戦の日に放送された、戦時中の実話に基づいた童話『かわいそうなぞう』の朗読です。これは1968年から番組が終了するまで、毎年欠かさず行われました。

番組の歴史は大変長く、その始まりは1957年 9月2日に遡ります。当時のTBSの前身であるラジオ東京（KR）で『昼の話題』という番組名でスタートしました。その後、1970年に現在の『秋山ちえ子の談話室』へと改題され、2002年 10月4日まで、実に45年間にわたって放送が続けられました。総放送回数は12,512回に及びます。一人のパーソナリティがこれほど長期間にわたって担当し続けた例は、世界的にも非常に珍しいものでしたが、後に永六輔氏の『永六輔の誰かとどこかで』が放送回数でこの記録を更新しています。

放送時間は、開始当初の『昼の話題』時代は正午のニュースに続いて12時15分から10分間でしたが、『談話室』に改題後は朝の10時00分から10分間の放送枠へと移動しました。放送曜日は、1981年1月31日までは月曜日から土曜日までの週6日でしたが、同年2月2日からは番組終了まで月曜日から金曜日までの週5日の放送となりました。番組の後期においては、月曜日はTBSラジオと一部のネット局で生放送されていましたが、その他の曜日は事前に録音されたものが放送されていました（時差ネット局では月曜日も録音放送でした）。

TBSラジオでは、1971年 10月4日からは『こんちワ近石真介です』、『スーパーワイドぴいぷる』、そして『大沢悠里のゆうゆうワイド』といった、同時間帯の大型ワイド番組の中に内包される形で放送されていました。土曜日に放送されていた時期は、『永六輔の土曜ワイドラジオTokyo』や『土曜ワイドラジオTOKYO』といった土曜日のワイド番組内での放送でした。番組初期の提供スポンサーは大洋漁業（現：マルハニチロ）、末期は東京電力と、いずれもTBSラジオのみのローカルスポンサーでした。特に、長年番組を内包していた『大沢悠里のゆうゆうワイド』のパーソナリティ、大沢悠里氏は、自身の番組の中でユーモラスなコーナーが放送されていても、秋山さんの「談話室」が始まると空気が引き締まり、特に8月15日の『かわいそうなぞう』朗読の日には、さらに身が引き締まる思いだったと語っています。

番組が終了した後も、TBS側からの強い要請により、週1回30分の『秋山ちえ子の日曜談話室』として2005年 10月2日まで放送が続けられました。秋山自身はこの番組の終了をもって放送界から引退することを表明していましたが、その後もNHKラジオ第1放送の朝の番組などに不定期で出演したり、そして毎年8月15日にはTBSの『大沢悠里のゆうゆうワイド』に出演して『かわいそうなぞう』の朗読を披露したりと、精力的な活動を続けました。

2016年4月6日、秋山ちえ子氏は99歳でその生涯を終えました。彼女の訃報を受けて、TBSラジオでは追悼の意を込め、過去に録音された『かわいそうなぞう』の朗読を放送。その後も、彼女が長年大切にしてきた終戦の日の朗読は、番組は変われど、2021年まで続くこととなりました。

『秋山ちえ子の談話室』は、その放送期間の長さだけでなく、一貫してリスナーの立場に寄り添い、社会を見つめ続けた秋山ちえ子の語り口と共に、日本のラジオ史において特別な存在感を残す番組と言えるでしょう。

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