秋山武太郎

秋山武太郎（あきやま たけたろう、1884年 - 1949年7月17日）は、教育者として中学校や高等学校の教壇に立ち、また著述家として多数の数学啓蒙書を世に送り出した人物です。

教育者・秋山武太郎

秋山は学制改革以前の京北中学校や武蔵高等学校で教鞭を執りました。その教育スタイルは、生徒たちの知的好奇心を刺激するものであったことが、後に各界で活躍した教え子たちの回想からうかがえます。

たとえば、哲学者の古在由重は、京北中学3年時の担任であった秋山の授業について述懐しています。秋山はフロリアン・カジョリによる『数学史』の一節などを、原文である英文で読み上げながら数学史のエピソードを紹介しました。このような授業は、古在が数学に関心を抱くきっかけとなったといいます。古在はまた、秋山が絵画を愛好し、将棋も得意であったという人間的な側面も伝えています。

武蔵高等学校で秋山の幾何学の授業を受けた物理学者・高橋秀俊は、秋山の講義を「名調子」と評し、特に楽しかった授業として記憶に残っていると語っています。高橋はまた、秋山が『わかる幾何学』などの著書で今日でもその名を知られていることにも触れています。

さらに、科学史家の岡邦雄は、1935年のラジオ番組に関する評論の中で、数学について聴衆に分かりやすく語りかけることのできる人物として、秋山の名を挙げています。岡は秋山の話を「多少漫談的でありながら、それでいて示唆に富む話」と表現しており、その話し手としての才能を示唆しています。

ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹も、自伝『旅人』の中で秋山の著書『わかる幾何学』に言及し、「西洋の数学者に関するエピソードがところどころに入っていて、この本が一番面白かった」と記しています。これらの証言から、秋山が単に数学の知識を伝えるだけでなく、その背景にある歴史や人物に触れ、生徒や読者を引きつける魅力的な語り口を持っていたことがわかります。

著作活動とその影響

秋山武太郎は、教育者として教鞭を執る傍ら、数学の入門書を多数執筆しました。これらの著作は、多くの学生や独習者に数学の理解を助け、広く親しまれました。

特に、戦前の数学教育において初等幾何学が非常に重視され、旧制高等学校の入試で必ず出題されていた時代背景の中で、秋山の幾何学に関する著書は、受験生にとって不可欠な学習参考書となりました。星野華水によるチャート式シリーズと並んで、長年にわたり「入試バイブル」として多くの受験生に利用されたのです。

彼の著作の中には、驚くほど長く読み継がれたものがあります。たとえば、『幾何学つれづれ草』は「大正時代のベストセラー」と評され、秋山の没後さらに数十年を経た1990年代にも新版が出版されるほどでした。また、彼の著書の多くは、没後、数学教育家の春日屋伸昌によって改訂作業が行われ、1980年代まで版を重ね続けました。特に、『わかる数学全書』シリーズとして体系化されたものはよく知られています。

主な著作（一部）

単著
『詳解代数学講義 因数分解之部』（工業書院、1911年）
『平面幾何學教科書』（明治書院、1919年）
『幾何学つれづれ草』（高岡書店、1919年）
『微分積分早わかり』（高岡書店、1921年）
『わかる幾何学 立体篇』（高岡本店、1932年）
『平面立体幾何学演習』（共立社、1935年）
『わかる微積分（上・下）』（高岡本店、1940年）

共著
『代数の研究：師なくして学び得らるる（正・続）』（根津千治との共著、高岡書店、1920年）
『平面幾何学』（黒河龍三との共著、弘道館、1930年）

わかる数学全書
* 秋山の旧版著作を基に、春日屋伸昌が改訂・加筆を行ったシリーズ。全10巻が予定されていましたが、実際には春日屋単独の著作も含まれました。秋山による旧版は、日本の著作権法の下でパブリックドメインとして扱われています。

秋山武太郎は、その教育者としての情熱と、分かりやすい文章で数学の楽しさを伝えた著作活動を通して、日本の近代数学教育に大きな足跡を残しました。彼の著書は今なお、数学を学ぶ多くの人々にとって貴重な財産となっています。

(注記：武蔵高等学校教授時代の秋山氏を含む集合写真が武蔵高等学校のウェブサイトにて公開されています。また、『幾何学つれづれ草』は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。)

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