高橋秀俊

高橋秀俊：日本のコンピュータ開発を牽引した物理学者

高橋秀俊（1915年1月15日 - 1985年6月30日）は、日本の物理学者であり、日本のコンピュータ開発におけるパイオニアとして重要な役割を果たした人物です。東京大学名誉[[教授]]であり、文化功労者としても顕彰されました。その功績は、物理学の研究にとどまらず、情報科学の発展にも大きく貢献しました。

生い立ちと学歴

高橋秀俊は、東京府豊多摩郡代々幡村（現在の東京都渋谷区代々木）で生まれました。父は心理学者・倫理学者である高橋穣で、祖父は心理学者の元良勇次郎という学術一家に育ちました。1937年に東京帝国大学（現東京大学）理学部物理学科を卒業後、同大学の助手としてキャリアをスタートさせました。

研究活動

高橋は、電磁気学、特に回路論的思考に精通しており、その自由な発想から数々の独創的な研究成果を上げました。1942年には「1次元系では相転移現象は起こらない」という重要な定理を簡潔に証明し、周囲を驚かせました。また、1944年にはチタン酸バリウムが強誘電体であることを指摘し、その後の日本の強誘電体研究の進展に大きく貢献しました。

戦後、高橋はシステム理論や制御理論に関心を抱き、真空管を使わないコンピュータの開発に情熱を注ぎました。1954年には、門下生の後藤英一がパラメトロンを発明すると、それを用いたコンピュータの実現に向けて研究室全体で取り組みました。その結果、1958年3月には日本初の安定動作が可能なコンピュータ「パラメトロン計算機PC-1」を完成させました。この業績は、日本のコンピュータ開発史における画期的な出来事として広く知られています。

その後も、高橋はコンピュータソフトウェアの研究にも力を入れ、和田英一をはじめとする多くの優秀な人材を育成しました。彼らは、ハードウェアとソフトウェアの両面から日本のコンピュータ技術の発展を支え、今日の情報社会の基盤を築きました。

実数学の提唱と数値計算

高橋は、理論研究だけでなく、現場で役立つ「実数学」を重視しました。数値計算の分野では、素数を法とした多倍長整数の計算法、FFT（高速フーリエ変換）、二重指数関数型数値積分公式などの研究で顕著な成果を上げました。

東京大学大型計算機センター初代所長

1965年に東京大学に大型計算機センターが設立されると、高橋は初代所長に就任し、センターの基本構築に尽力しました。このセンターは、現在の東京大学情報基盤センターへと発展し、日本の情報科学研究の中核拠点となっています。

慶應義塾大学での活動とロゲルギスト

1975年に東京大学を定年退官後、高橋は慶應義塾大学に移り、物理学科の新設に尽力しました。また、物理学者仲間7名と「ロゲルギスト」というグループを結成し、物理現象をはじめとする幅広いテーマについて議論を交わしました。その成果はエッセイとしてまとめられ、「自然」誌に連載された後、「物理の散歩道」シリーズとして出版され、多くの読者に親しまれています。

晩年と業績

高橋秀俊は、物理学と情報科学の両分野において、卓越した才能を発揮し、日本の学術研究と技術発展に多大な貢献をしました。その功績は、今日の情報社会の礎を築いたと言っても過言ではありません。1985年に逝去されましたが、彼の遺した研究成果は今もなお、多くの研究者や技術者に影響を与え続けています。

著書

高橋秀俊は、多数の著書を執筆しており、その中には以下のようなものが挙げられます。

『振動と回路』
『電子計算機』
『サイバネティックス』
『計算機械』
『電磁気学』
『双対と類推』
『回路 : 大学演習』
『放射線計測学』
『エネルギー変換論』
『線形集中定数系論』
『パラメトロン計算機』
『線形分布定数系論』
『医学・生物学のための基礎物理学』
『電子計算機の誕生』
『数理の散策』
『システムサイエンスシリーズ』
『数理と現象』
『エネルギー基礎工学』
『コンピューターへの道』
『情報科学の歩み』
『現代エネルギー基礎論』
『高橋秀俊の物理学講義 : 物理学汎論』

また、訳書としては以下のようなものがあります。

『イオン結晶論』
『人工頭脳』
『電子計算機と人間 : 人工知能の出現』
『波動』
『自己増殖オートマトンの理論』

これらの著書は、彼の幅広い知識と深い洞察を今に伝える貴重な資料となっています。

経歴

1934年 - 武蔵高等学校卒業
1937年 - 東京帝国大学理学部物理学科卒業、東京帝国大学理学部助手に就任
1942年 - 東京帝国大学理学部助[[教授]]に就任
1957年 - 東京大学より理学博士の学位を取得、東京大学理学部教授に就任
1963年 - 情報処理学会副会長に就任
1964年 - 東レ科学技術賞受賞
1965年 - 東京大学大型計算機センター初代所長(教授と兼任)に就任
1969年 - 情報処理学会会長に就任
1975年 - 東京大学名誉[[教授]]、慶應義塾大学工学部教授に就任、紫綬褒章を受章
1979年 - プログラミング・シンポジウム委員長に就任
1980年 - 慶應義塾大学工学部客員[[教授]]に就任、文化功労者に選ばれる
* 1985年 - 死去。叙正四位、叙勲二等旭日重光章


高橋秀俊は、日本の科学技術の発展に大きく貢献した偉大な人物として、その名を歴史に刻んでいます。

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