古在由重

古在由重：激動の時代を貫いた哲学者

古在由重（こざい よししげ、1901年5月17日 - 1990年3月6日）は、日本の哲学者であり、名古屋大学の元教授です。東京帝国大学総長を務めた農芸化学者・古在由直と、作家・清水紫琴の次男として生まれ、恵まれた環境で育ちました。しかし、その人生は、時代の大きな波に翻弄され、常に社会と向き合うものでした。

生い立ちと青年期

古在由重は、旧制第一高等学校を経て東京帝国大学文学部哲学科を卒業しました。学生時代から哲学への深い関心を抱き、1932年には戸坂潤らと共に唯物論研究会を設立。マルクス主義哲学の研究に取り組みました。しかし、その活動は当時の社会情勢から危険視され、1933年と1938年の二度にわたり治安維持法違反で検挙されるという厳しい経験をしました。

戦時下と戦後の活動

出獄後、古在は上智大学でカトリック文献の翻訳に携わったり、四王天延孝の回教協会で勤務したりするなど、戦時下を生き抜きました。戦後は、民主主義科学者協会の中心メンバーとして、原水爆禁止運動や平和運動に積極的に参加しました。しかし、1984年の原水協分裂に際し、共産党を批判したグループを支援したことが原因で、日本共産党から除籍されるという事態も経験しました。これは、彼が常に自身の信念に従い行動した結果でした。

学術活動と著作

古在由重は、1959年から1965年にかけて名古屋大学で教鞭を執り、多くの学生を育てました。また、『古在由重著作集』全6巻を出版するなど、精力的な執筆活動も展開しました。さらに、結婚後に執筆を禁じられた母親・清水紫琴の全集を編纂するなど、家族への深い愛情も示しました。彼の著作は、哲学、歴史、社会思想など多岐にわたり、その思考の深さと幅広さを示しています。

古在ゼミと平和運動

古在が主宰した「古在ゼミ」は、哲学研究会としてだけでなく、多くの平和運動につながる人材を輩出しました。彼の思想は、学生たちに強い影響を与え、社会変革への情熱を燃え上がらせました。古在の教えを受けた人々は、その後も様々な分野で活躍し、その影響力は現代にまで及んでいます。

その死と影響

古在由重の死は、彼が共産党から除籍されていた経緯から、日本共産党機関紙「赤旗」では報道されませんでした。しかし、彼の業績と生涯は、多くの人々の記憶に深く刻まれています。その哲学と思想は、現在でも多くの人々に読み継がれ、研究対象となっています。古在由重は、激動の時代を生き抜き、常に社会の矛盾と向き合い続けた、不屈の哲学者でした。

主な著書

『古代哲学史』
『唯物論通史』
『現代哲学』
『唯物論史序説』
『五つの省察』
『史的唯物論』
『思想とはなにか』
『古在由重著作集』全6巻
『人間讃歌』
『自由の精神』
『教室から消えた先生』
『草の根はどよめく』
『戦時下の唯物論者たち』
『和魂論ノート』
『哲学者の語り口』
『古在由重の哲学』
『勇気ある義人　古在由重セレクション』

編著・共著

『唯物弁証法入門 「スターリン弁証法的唯物論と史的唯物論」研究』
『弁証法の課題』
『リアリズム研究』
『哲学の現代史』
『哲学用語辞典』
『現代思想十二講』
『哲学講座』全5巻
『哲学研究入門』
『岩波小辞典哲学』
『思想のデュエット——古在由重対話集』
『スポーツとヒューマニズム——古在由重論談集』
『知識人と現代 研究者の記録』
『思いだすこと忘れえぬひと』
『愛と自立 紫琴・らいてう・百合子を語る』

没後刊の伝記、対話編著

『古在由重　人・行動・思想　二十世紀日本の抵抗者』
『暗き時代の抵抗者たち』
『ある哲学者の軌跡　古在由重と仲間たち』
『回想録わが師たち　藤田省三・古在由重・高杉一郎』

翻訳

バウホ『哲学論叢 カントと現代の哲学的課題』
ソ同盟科学院哲学研究所『弁証法的唯物論』全3分冊
マルクス/エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』
* マックス・ヴェーバー『ヒンドゥー教と仏教』

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