秦野盆地

神奈川県秦野盆地：豊かな湧水と歴史、そして未来

秦野盆地は、神奈川県西部に位置する東西約6.5km、南北約4kmの典型的な盆地です。周囲を丹沢山地と渋沢丘陵に囲まれたこの盆地は、その地形から、古くから独自の文化と産業を育んできました。

盆地の成り立ちと地理的特徴

秦野盆地は、丹沢山地から流れ出る河川によって形成された扇状地が堆積してできた断層角盆地です。盆地内には水無川をはじめとする複数の河川が流れ、その扇状地が盆地の底を構成しています。東名高速道路、新東名高速道路、国道246号、小田急小田原線といった交通網が盆地を東西に横断しており、交通の要衝として機能しています。

農業から工業都市への変遷

明治時代以降、秦野盆地では市場からの距離が比較的遠かったため、葉たばこ栽培が盛んに行われてきました。葉たばこを基幹作物として、陸稲、落花生、麦、蕎麦といった輪作が行われ、地域経済を支えていました。しかし、1950年代後半から始まった工業団地の開発により、農業従事者は減少していき、葉たばこ栽培は1984年に終焉を迎えます。その後、農業は集約化が進み、畜産、果樹、野菜、施設園芸へと移行していきました。

秦野盆地湧水群：恵みの水資源

秦野盆地は、丹沢山地からの豊富な雨水と盆地内の降水を蓄えた地下水盆となっています。そのため、盆地周辺部では多くの湧水が見られ、その総称を秦野盆地湧水群と呼びます。20カ所以上もの湧水は、古くから地域住民の生活用水として利用され、全国でも有数の近代的な水道システムの整備にも貢献しました。

1985年には、「豊富で良質な湧水が多く、用水、水道が古くから発達し、条例・要綱等で保全につとめている」という理由から、名水百選に選定されました。さらに2016年には、「名水百選」選抜総選挙においても高い評価を受け、おいしさにおいて1位を獲得しています。秦野市羽根地区の地下水を使用したボトルドウォーター「丹沢の雫」は、そのおいしさから高い人気を誇り、全国的に知られるようになりました。

代表的な湧水地

秦野盆地には、護摩屋敷の水、竜神の泉、弘法の清水、今泉名水桜公園など、多くの湧水地が存在します。これらの湧水は、地域住民にとってかけがえのない資源であり、秦野市のシンボルとなっています。

水資源の危機と保全への取り組み

秦野盆地では、1960年代後半から1970年代にかけて、急激な水需要の増加により水不足が深刻な問題となりました。また、1989年には化学物質による地下水汚染も発生しました。これらの危機を乗り越えるため、秦野市は環境保全条例を制定、地下水汚染防止条例を制定するなど、積極的な水資源保全対策に取り組んできました。その結果、秦野盆地湧水群は再生し、現在も豊かな湧水を湛えています。これらの取り組みは、持続可能な地域社会を築く上で重要な役割を果たしています。秦野盆地の歴史、自然、そして人々の努力が織りなす物語は、これからも未来へと続いていくでしょう。

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