称号剥奪法 (1917年)

称号剥奪法

称号剥奪法は、第一次世界大戦中にイギリスと敵対関係にあった王族や貴族の英国爵位・称号を剥奪するために制定されたイギリスの法律です。ここでは、制定に至る経緯と、その内容について詳しく解説します。

制定の背景

イギリス王室は、歴史的にドイツ連邦諸邦と深い繋がりがありました。ジョージ1世がブラウンシュヴァイク＝リューネブルク選帝侯家出身であったことから、18世紀初頭から約1世紀にわたり、イギリスとハノーファー王国は同君連合という関係にありました。

ヴィクトリア女王の即位後、同君連合は解消されましたが、女王がザクセン＝コーブルク＝ゴータ家出身のアルバートと結婚するなど、その後もイギリス王室とドイツ諸邦との関係は続きました。

しかし、1914年に第一次世界大戦が勃発すると、イギリスとドイツ諸邦は敵対関係となり、王家同士も敵味方に分かれて戦うことになったのです。

制定の動き

1914年11月、イギリスの庶民院議員スウィフト・マクニールは、ドイツ帝国を支持するカール・エドゥアルトとエルンスト・アウグストを公然と非難し、彼らの爵位剥奪を政府に求めました。さらに、有力紙『デイリー・テレグラフ』は、北部諸侯の乱の際にガーター勲章を剥奪されたノーサンバーランド伯爵の例に倣い、ドイツ皇帝の勲章も剥奪するべきだと主張しました。

世論と議会の突き上げを受け、ジョージ5世はドイツ皇帝ヴィルヘルム2世らドイツ諸侯からガーター勲章を剥奪しました。しかし、爵位剥奪には依然として消極的な意見も多くありました。

その後も、マクニールやホレイショ・ボトムリーといった議員が、世論を背景に爵位剥奪を強く要求し続けました。高まる反独感情の中、ついにイギリス議会は1917年、称号剥奪法を可決するに至ったのです。

称号剥奪法の詳細

称号剥奪法では、イギリスと敵対する王侯貴族の称号や爵位の剥奪を認可するとともに、その手続きを定めています。具体的には、国王が枢密顧問官からなる委員会を設置し、委員会が「英国及び同盟国に敵対的であるか、あるいは国王陛下の敵を支持しているか」を審議し、その結果を両院に報告します。

両院が報告を承認した場合、国王は枢密院令を発し、対象者の爵位と称号を剥奪します。ただし、本法は「宣告を受けた者の後継者はその爵位にかかる回復請求を行うことができる」とも定めており、救済の途も残されていました。また、財産権には影響を与えないことも明記されていました。

1917年11月、ジョージ5世は委員会を招集し、審議を開始させました。そして1919年3月、委員会報告に基づき、オルバニー公爵やカンバーランド＝テヴィオットデイル公爵など、複数の王族・貴族から爵位と称号が剥奪されたのです。

称号剥奪法は、第一次世界大戦という特殊な状況下で制定された、異例の法律と言えるでしょう。

参考文献

君塚直隆『女王陛下のブルーリボン-英国勲章外交史-』中央公論新社、2014年
Hatton, Ragnhild (1978). George I: Elector and King. London: Thames and Hudson.

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