移

移（い）に関する詳細

「移」とは、日本の律令制における特別な公文書の形式を指します。この文書は、異なる官職間で互いに授受される際に使用されるものであり、官職同士の上下関係を超えたやり取りが行われる時に特に重要でした。特に、令外官が関わる場合には、通常とは異なる別の形式である「牒」が用いられることになっていました。

中国における「移」の起源

「移」は、中国の歴史的な公文書の形式から影響を受けています。古い文献『文心雕龍』では、移が「易に通じ、俗を易える」、即ち変更や変化を意味することが記されています。また、敦煌で発掘された唐の開元令の資料にも、「移」に関する重要な規定が残されており、これが日本の律令制度における「移」の発展に寄与したと考えられています。

日本では、大宝令や養老令においても「移」の形式が取り入れられました。日本の律令法では、各官職は通常、管轄関係にあることが求められますが、「移」は特にその枠を超える状況で文書のやりとりを行うために用いられました。これは、例えば八省間や地方の国司間の公文書の交換などに代表されます。

移の構造と書式

公式な「移」の文書は、まず最初の行に差出人の官職名と受取人の官職名を記載し、「移」という言葉が続きます。次に書き込まれた内容が続き、最後の行には通常「故移」と締めくくられます。しかし、ある案件では「以移」という形式が用いられ、命令文としての明確な意味を持たせることもありました。その後、文書の作成日や作成者の官職、位階、姓名が記載され、最終的に所管の省からの承認印が必要となります。

変遷と課題

養老3年（719年）においては、僧綱や三綱といった特殊な官職間での文書のやり取りも「移」の様式が採用されましたが、実際は「牒」の形式に変更されることとなりました。この変更は、養老律令における大きな違いとされており、以降も多くの官職間で「移」によるやり取りは続きました。

しかし、令外官の増加に伴い、移の利用は徐々に曖昧となり、最終的には「牒」の形式が主流となっていきました。このことは、特定の官職間の移送制限の存在が影響した部分もあり、直接的なやり取りが行えなくなる中で、「牒」を通じた文書交換が普及したのです。

現在の状況と存在証明

「移」は元々、官職間での公文書のやり取りに特化したものであり、その保管期限を過ぎると廃棄されることが一般的でした。このため、正倉院文書の一部を除いて、歴史的な資料としてはほとんど現存していないと考えられています。これが、当時の通信手段や官職のあり方を知るための貴重な情報源を失わせている要因ともなっています。

このように、移の形式は日本の律令制や官職間の関係性を深く理解する上で重要な役割を果たしています。

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