令外官

令外官とは

令外官（りょうげのかん）とは、律令制度に定められた正規の官職（令制官）とは別に、必要に応じて臨時に設置された官職のことです。律令制度は、社会の秩序を維持するための基本となるものでしたが、時代の変化や新たな問題に対応するため、柔軟な対応が求められました。そこで、既存の制度にとらわれず、現実的な政治課題に即応するために令外官が設けられました。令外官が管轄する官司は、令外官司（りょうげのかんし）と呼ばれます。

唐における令外官

中国では、唐の時代に令外官が数多く設置されました。唐の律令は、それまでの官職や法制度を集大成したものでしたが、その完成度の高さゆえに、現実との間に乖離が生じることがありました。特に、8世紀前半の玄宗皇帝の時代には、社会の変化に対応するため、軍事、財政、行政監察など、さまざまな分野で令外官が新設されました。

軍事面では、府兵制が形骸化するにつれて、募兵制による組織が編成され、団練使（だんれんし）や節度使（せつどし）が置かれました。また、財政需要の増大に対応するため、度支使（たくしし）、塩鉄使（えんてつし）など、多くの財政関係の使職が設置されました。行政を監察するためには、観察使（かんさつし）や按察使（あぜち・あんさつし）などが置かれました。これらの令外官は、現実の必要に応じて設置されたため、次第に実権を握り、令制官は形骸化していきました。令外官の長官には、部下である属官や胥吏（実務職員）を任命する権限があり、財力のある地方の有力者が胥吏に就任するようになり、これが唐末期の地方地主層（士大夫層）の台頭につながりました。

日本における令外官

日本では、大宝[[律令]]の制定直後から、参議（さんぎ）、造平城京使（ぞうへいじょうきょうし）、中納言（ちゅうなごん）などの令外官が置かれていました。大学寮には、文章博士（もんじょうはかせ）や明法博士（みょうぼうはかせ）などの令外官が設置され、儒教以外の知識に通じた官人の育成が行われました。

淳仁・孝謙（称徳）両天皇の時代には、造宮省（ぞうぐうしょう）、勅旨省（ちょくししょう）など、大規模な令外官が乱立し、政治が混乱しました。8世紀末の桓武天皇の時代には、律令制度の弛緩が進んだため、大規模な行政改革が行われました。この改革以降、令外官は律令官制の不備を補うために、積極的に設置されるようになりました。桓武天皇の時代には、勘解由使（かげゆし）が設置され、地方国司の行政を監察しました。

9世紀には、嵯峨天皇によって、天皇の秘書官として機密文書を取り扱う蔵人所（くろうどどころ）が設置され、その長である蔵人頭（くろうどのとう）も令外官となりました。同じく嵯峨天皇は、京都の治安維持のために、検非違使（けびいし）を設置しました。10世紀になると、地方の治安が悪化したため、押領使（おうりょうし）や追捕使（ついぶし）が置かれ、地方の治安警察を担当しました。

また、天皇を補佐する関白（かんぱく）、天皇の権限を代行する摂政（せっしょう）、天皇の決裁文書を事前に閲覧できる内覧（ないらん）も令外官であり、平安時代中期以降、藤原北家がこれらの職を世襲し、摂関政治を行いました。武家政権の長である征夷大将軍（せいいたいしょうぐん）も、本来は蝦夷征討を目的とした令外官の一つでした。

主な令外官一覧

• - 関白（かんぱく）
• - 内大臣（ないだいじん）
• - 中納言（ちゅうなごん）
• - 参議（さんぎ）
• - 蔵人（くろうど）・蔵人頭（くろうどのとう）
• - 文章博士（もんじょうはかせ）
• - 征夷大将軍（せいいたいしょうぐん）
• - 鎮守府将軍（ちんじゅふしょうぐん）
• - 勘解由使（かげゆし）
• - 武者所（むしゃどころ）
• - 雑訴決断所（ざっそけつだんしょ）
• - 記録荘園券契所（きろくしょうえんけんけいしょ）
• - 検非違使（けびいし）
• - 押領使（おうりょうし）
• - 追捕使（ついぶし）
• - 明法博士（みょうぼうはかせ）

これらの令外官は、時代や社会の変化に対応するために、柔軟に設置・廃止され、歴史の中で重要な役割を果たしました。令外官の存在は、律令制度が固定的なものではなく、時代とともに変化し、社会のニーズに応えていったことを示しています。

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