稲津重政

稲津重政：日向伊東氏を支えた勇将、その栄光と悲劇

稲津重政（いなづ しげまさ）は、安土桃山時代の武将で、日向伊東氏の家臣として活躍しました。現在の宮崎県宮崎市清武町に位置する清武城の城主を務めました。

生涯

稲津氏は、伊東氏の庶流にあたります。伊東氏祐が日向に下向する際に付き従い、家臣化した一族です。重政は若くしてその才能を見出され、19歳で当主・伊東祐兵の小姓となりました。その後、朝鮮出兵にも参陣するなど、武将としての経験を積みました。慶長3年（1598年）には、清武城主に任じられ、さらに家老職にも抜擢されるなど、主君・祐兵からの信頼は非常に厚かったとされています。

宮崎城の戦い

慶長5年（1600年）、関ヶ原の戦いの前哨戦とも言える時期に、石田三成と徳川家康の対立が激化しました。当時、大坂にいた当主・祐兵の命により、嫡男の祐慶が飫肥に戻り、黒田孝高の軍使である宮川伴左衛門が飫肥に使わされました。重政は宮川伴左衛門と協議し、東軍への味方の証として、石田方についた高橋元種の居城であった宮崎城を攻略する計画を立てました。

9月29日、重政は伊東軍の総大将として、3千の兵を率いて宮崎城を攻撃しました。重政は、兵を5つの部隊に分け、宮崎城攻略に当たらせ、残りの兵を清武城や周辺の拠点に配置しました。宮崎城の守備兵は700人程度でしたが、重政の巧みな指揮と伊東軍の奮戦により、宮崎城はわずか一日で落城しました。この戦いをきっかけに、伊東氏は島津氏と一時的な対立状態となりましたが、重政は佐土原や穆佐など、約50もの小合戦を転戦しながら宮崎城を守り抜きました。

10月18日には、島津軍が2000余りの兵で攻め寄せましたが、重政率いる1100ほどの伊東軍がこれを撃退しました。さらに10月30日には、3200の兵で島津軍が攻め寄せるも、1000に満たない兵でこれを退けました。重政は、寡兵でありながらも度々島津軍を打ち破り、その武勇は近隣に広く知れ渡りました。

稲津の乱

しかし、宮崎城落城時、高橋元種は既に徳川方に恭順しており、本領安堵を約束されていました。そのため、宮崎城は高橋元種に返還されることとなり、このことが重政の立場を次第に苦しくしていきます。さらに、主君である伊東祐兵が病死し、祐慶が跡を継いだことで、重政は家中で孤立を深めていきました。重政の行状も荒れ始め、藩主・祐慶は詰問状を作成し重政を罷免しようとしましたが、重政はこれを受け入れず、最終的に切腹を命じられました。これに対し、重政は慶長7年（1602年）10月12日に、わずかな手勢を率いて清武城に籠城しましたが、飫肥藩兵の攻撃により10月18日に戦死しました。享年29歳という若さでした。この一連の騒動は「稲津の乱」と呼ばれています。

『日向記』によると、宮崎城攻めの際に、重政が祐慶の秘蔵の馬を借りて出陣し、その返却を督促した使者に対して悪態をついたことが、事件の発端の一つとされています。この一件が、藩内の重臣たちの反感を買い、最終的に重政討伐へと繋がったとされています。

逸話

『日向纂記』には、黒田如水の軍使として来ていた宮川伴左衛門が、宮崎城での戦いぶりを「掃部助（重政）の軍略は言うに及ばず、伊東家中の諸士の勇敢なる様は筑紫においては立花家の家風に似ている」と評したと記されています。また、宮川伴左衛門から宮崎城での戦いを聞いた黒田如水は、自身の近習を皆呼び集め「伊東軍の戦いぶりを手本とするように」と絶賛したと言われています。

系譜

重政の伯父にあたる稲津因幡守重信は、伊東義祐の時代に祐兵の下で飫肥城に入り、伊東氏が飫肥に戻って以降は紫波洲崎地頭となりました。また、従兄弟にあたる稲津九郎兵衛重房は、祐慶が大坂から戻る際に付き従い、後に肥後加藤家に仕えました。

墓所

重政と妻の墓は、宮崎市清武町の宮崎市立加納小学校南西の丘陵上にあります。2メートルを超える板碑状の墓石で、1970年（昭和45年）7月23日付で「稲津掃部助の墓」として宮崎市指定史跡に指定されました。

重政は、その武勇と知略で日向伊東氏を支えましたが、最後は悲劇的な結末を迎えました。しかし、その活躍は歴史に残り、今もなお語り継がれています。

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