伊東義祐

伊東義祐：日向の戦国大名、その栄光と挫折

伊東義祐（いとう よしすけ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将で、日向国（現在の宮崎県）を治めた戦国大名です。日向伊東氏の11代当主であり、伊東氏の最盛期を築き上げましたが、その後の失策により、一族は没落へと向かいました。

生涯

家督相続

永正9年（1512年）、伊東尹祐の子として生まれました。天文2年（1533年）、兄である9代当主・伊東祐充が急死すると、叔父の伊東祐武が反乱を起こし、家中は混乱に陥ります。祐武は、祐充や義祐の外祖父である福永祐炳を自害に追い込み、都於郡城を占拠しました。義祐は弟の祐吉と共に、一時的に日向を離れることになります。

しかし、祐武を支持しない家臣たちの働きかけにより、義祐兄弟は財部に引き返し、祐武勢力と対峙。荒武三省の活躍により、祐武は自害し、義祐たちは都於郡城を奪還しました。その後、伊東氏の家督は弟の祐吉が継ぎましたが、祐吉が病死したため、天文5年（1536年）に義祐が還俗し、11代当主となりました。

翌天文6年（1537年）、義祐は従四位下に叙せられ、将軍・足利義晴から偏諱を受け、「義祐」と名乗るようになります。天文10年（1541年）には大膳大夫の官途を拝受し、永禄4年（1561年）には従三位に叙せられ、「三位入道」と称しました。さらに、永禄7年（1564年）には室町幕府の相伴衆に任じられています。

飫肥役

義祐は、飫肥（おび）を領有する島津豊州家と、日向南部の権益を巡って争いを繰り返しました。永禄3年（1560年）、豊州家は幕府に調停を依頼しましたが、義祐はこれに応じませんでした。幕府の使者が派遣された際、義祐は先祖が幕府から賜ったという文書を提示しましたが、偽書であると断定されました。しかし、義祐はこれを無視し、翌永禄4年（1561年）には、七度目の飫肥侵攻を開始しました。

同年12月、義祐は豊州家を圧倒し、飫肥の一部を割譲させ、永禄5年（1562年）には完全な領有に成功します。しかし、同年9月には豊州家に攻められ、わずか4ヶ月で撤退することになりました。永禄11年（1568年）、義祐は自ら大軍を率いて飫肥城を攻撃し、島津勢を破り、和睦を結びました。その結果、大隅国の肝付氏と豊州家の領土を分け合う形で、永禄12年（1569年）に飫肥を支配下に置きました。この頃、義祐は日向国内に48の支城を築き、伊東氏の最盛期を築き上げました。

しかし、その勢いに乗じて、義祐は次第に奢侈と京風文化に溺れるようになり、武将としての覇気を失っていきます。本拠である佐土原は「九州の小京都」と呼ばれるほど発展しましたが、これは同時に伊東氏の衰退を招く要因ともなりました。

真幸院攻略〜木崎原の戦い

永禄元年（1558年）、義祐は姻戚関係にあった北原氏の家督相続問題に介入し、北原氏の領地を奪い取ろうとしました。翌永禄2年（1559年）には、反対派を粛清し、北原氏の領土を強引に奪いました。しかし、永禄5年（1562年）には、島津貴久らの協力により、北原氏の旧領は奪還されます。

その後、義祐は相良氏と同盟し、北原氏の残りの領土を攻めました。真幸院（まさきいん）の飯野地区は肥沃な穀倉地帯であり、日向を完全に支配するためには、飯野地区の攻略が不可欠でした。永禄9年（1566年）に飯野地区攻略の前線基地として三ツ山城を築城しますが、島津氏の攻撃を受けます。

永禄11年（1568年）には、飯野地区への攻略に乗り出しますが、島津勢に阻まれます。さらに、家督を譲っていた次男・義益の急死もあり、撤退を余儀なくされました。この撤退は、相良氏の遺恨を買うことにも繋がりました。

元亀3年（1572年）、島津氏の加久藤城を攻めた際、伊東軍は島津義弘率いるわずかな軍勢に大敗を喫します（木崎原の戦い）。この戦いで伊東家の有力武将たちが多数討死し、真幸院攻略は頓挫しました。この木崎原の戦いの敗北は、伊東氏衰退の決定的な契機となりました。

伊東崩れ

木崎原の戦いでの大敗以降、義祐の勢力は急速に衰退していきます。天正4年（1576年）には、高原城が島津氏に攻め落とされ、翌日には小林城と須木城が島津氏に寝返ります。これにより、伊東氏の領土は次々と失われました。家臣たちは義祐に事態を訴えましたが、義祐は諫言を聞き入れませんでした。

天正5年（1577年）には、櫛間城が島津氏に攻め落とされ、さらに、日向北部の国人・土持氏が伊東領へ攻撃を開始し、伊東家は危機的状況に陥ります。義祐は、嫡孫の義賢に家督を譲りますが、事態は好転しません。同年12月には、家臣の裏切りが相次ぎ、佐土原の西の守りは完全に島津氏の手に落ちました。遂に、義祐は日向を捨て、豊後国の大友宗麟を頼ることを決意します。

佐土原を捨てた義祐一行は、新納院財部城主・落合兼朝の裏切りにあい、山中を逃げることになります。過酷な逃避行の末、豊後国に辿り着いたときには、わずか80名ほどになっていました。その中には、後に天正遣欧少年使節の一人となる伊東マンショの幼い姿もありました。

義祐は大友宗麟に日向攻めの助力を請いますが、大友軍は島津軍に大敗を喫します。その後、義祐は子の祐兵らと共に伊予国に渡り、河野氏を頼ります。天正10年（1582年）には播磨国に移り、祐兵が羽柴秀吉に仕えるようになりました。

最期

祐兵の仕官を見届けた義祐は、その後、中国地方を流浪し、周防国山口で旧臣宅に滞在しました。病に侵された義祐は、祐兵の屋敷がある堺へ向かいましたが、便船の中で病死し、73年の生涯を閉じました。

人物

義祐は、奢侈に溺れ、国を追われたことで知られています。特に、仏事への傾倒が深刻な問題でした。大仏を造立し、金閣寺を模した寺を建てるなど、仏教に深く傾倒していました。

小説

松本清張の短編小説『三位入道』は、義祐を主人公とした作品です。

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