稲葉久通

稲葉久通：激動の幕末を生き抜いた最後の藩主

稲葉久通は、豊後国臼杵藩の第15代にして最後の藩主として歴史に名を刻んだ人物です。旗本・岡野知英を父に持ち、母は土佐藩主山内容堂の娘と伝えられています。文久2年（1862年）、先代藩主の急逝を受け、11代藩主の孫娘を妻に迎え、家督を継承しました。

久通の生涯は、幕末という激動の時代と深く関わっています。土佐藩との縁戚関係から、佐幕派の立場を明確に示し、尊皇攘夷運動の誘いを断固として拒否しました。朝廷からの上洛命令にも当初は応じず、豊後諸藩の中でも最も遅い上洛となりました。しかし、版籍奉還においては諸藩に先駆け、藩知事を務めました。

藩知事として、久通は藩政改革に尽力しました。しかし、明治4年（1871年）の廃藩置県により、その職を解かれました。東京への移住を余儀なくされた後も、旧領の士族への支援を忘れず、臼杵に残る者たちの授産のため、旧物産所の権利と多額の資金を提供しています。

私生活においても、久通は新たな道を歩み始めます。明治5年（1872年）、家臣の紹介で慶應義塾に入学。学ぶことへの飽くなき情熱を示しました。同塾での勉学を通して、近代日本の礎を築く知識を吸収し、時代への適応を図ったと考えられます。

そして、明治26年（1893年）、51歳で東京にて生涯を閉じました。

久通の功績は、単に藩主としての役割にとどまりません。激動の時代を生き抜き、時代の変化に対応すべく努力し、藩政改革や慶應義塾での勉学、そして旧領への惜しみない支援などを通して、その生涯は後世に多大な影響を与え続けました。

家系と栄典

久通は、岡野知英と山内容堂の娘を両親に持ちます。妻は稲葉多計子（清徳院）であり、複数の子をもうけています。明治17年（1884年）には子爵の位を授けられています。

人物像

稲葉久通は、複雑な時代状況の中、常に冷静な判断を下し、柔軟な対応を心がけた人物であったと考えられます。佐幕派としての立場を貫きながらも、廃藩置県という大きな変化を受け入れ、新たな学びの場へと進みました。彼の行動は、単なる保守主義者ではなく、変化への対応能力と、民衆への深い愛情を持った人物であったことを示しています。

参考文献

『慶應義塾入社帳 第1巻』福澤諭吉研究センター（編）、慶應義塾、1986年。
丸山信編『人物書誌大系 30 福沢諭吉門下』日外アソシエーツ、1995年。ISBN 4816912843

もう一度検索