稲葉迂斎

稲葉迂斎（いなば うさい）

稲葉迂斎は、江戸時代中期の儒学者であり、その学問への情熱と人柄で知られています。貞享元年（1684年）に麻布六本木町で生まれ、宝暦10年（1760年）に没しました。佐倉藩士である鈴木正則の子として生まれ、通称は十五郎、十左衛門と名乗りました。諱は通経でしたが、後に正義と改名しています。兄に稲葉則通、息子に同じく儒学者である稲葉黙斎がいます。

学問への傾倒

迂斎は、浅見絅斎や三宅尚斎といった儒学者の影響を受け、特に山崎闇斎の学問（闇斎学）に深く傾倒しました。三木信成、伴部安崇、赤井直義らと交流し、互いに研究に励みました。また、佐藤直方に師事する一方で、自らも講釈を行うなど、学問に対する積極的な姿勢を示しました。絅斎や尚斎のもとに滞在し、熱心に聴講する姿も見られました。

師である佐藤直方の没後、闇斎学は一時衰退の危機に瀕しましたが、迂斎の声望は衰えることなく、むしろ高まり続けました。その学識と人柄は広く認められ、正徳5年（1715年）には唐津藩に招聘され、藩士への教育に尽力しました。寛保3年（1743年）には、その功績が認められ200石を支給されています。

人柄

迂斎は、酒や煙草を一切嗜まず、ひたすら古書の読解に励む日々を送りました。また、自身の知識を人々に分け与えることを惜しまず、書物の講釈を熱心に行いました。旅行や喪に服す時を除き、一日たりとも講釈をしない日はなかったと言われるほど、教育に対する情熱を持ち続けていました。その真摯な態度は、多くの人々から尊敬を集めました。

著作

迂斎は、数多くの著作を残しており、彼の学問的業績を今に伝えています。主な著作として、「親民須知」、「迂斎先生学話抄略」、「幼君輔佐之心得」、「与興津氏之女書」、「迂斎先生語録抄略」、「迂斎稲葉先生国字筆記」などが挙げられます。これらの著作は、当時の社会や政治、教育に関する彼の思想や知識を深く知るための貴重な資料となっています。

墓所

稲葉迂斎の墓所は、東京都文京区本駒込にある龍光寺にあります。彼の墓は、今も静かに佇み、その生涯と学問への貢献を偲ばせています。

参考文献

* 江戸文人辞典（東京堂出版）

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