山崎闇斎

山崎闇斎（やまざき あんさい）

山崎闇斎は、元和4年（1619年）に京都で生まれ、天和2年（1682年）に没した江戸時代前期の儒学者、神道家、思想家です。諱は嘉、字は敬義、通称は嘉右衛門といい、闇斎は号です。また、「垂加霊社」という霊社号を自ら定めました。

概要

闇斎は、朱子学の一派である崎門学（きもんがく）と、神道の一派である垂加神道（すいかしんとう）の創始者として知られています。朱子学者としては南学派に属し、闇斎によって論じられた朱子学は「崎門学」または「闇斎学」と呼ばれます。その思想の特徴は、君臣の厳格な上下関係を説き、大義名分を重視した点にあります。

特に、湯武放伐（とうぶほうばつ：君主が暴政を行った場合、家臣が君主を討伐することを正当とする思想）を否定し、たとえ暴君であっても忠義を貫くべきと主張しました。具体的には、殷の紂王に対する周の文王の態度を肯定しました。また、易姓革命（王朝が交代することを正当とする思想）を否定し、「中国歴代の創業の君主で道義にかなっているのは後漢の光武帝ただ一人である」と述べました。

さらに、孔子や孟子が日本に攻めてきた場合、弟子たちには彼らと戦うべきだと説きました。これは、儒教の教えに忠実であるならば、たとえ孔子や孟子であっても、道理に反する行動には従うべきではないという考えを示しています。

闇斎は、神道についても深く研究し、吉川惟足の吉川神道を発展させて垂加神道を創始しました。垂加神道においても、君臣関係を重視する考えが貫かれています。

このような闇斎の思想は、水戸学や国学などと共に、幕末の尊王攘夷思想、特に尊王思想に大きな影響を与えました。

生涯

闇斎は、幼少期に比叡山や妙心寺で僧侶としての修行を積みました。その後、土佐国の吸江寺に移り、湘南宗化の弟子となります。土佐南学派の谷時中から朱子学を学び、野中兼山や小倉三省らとも交流する中で、朱子学への傾倒を深めました。寛永19年（1642年）に25歳で還俗し、儒学者としての道を歩み始めました。

明暦元年（1655年）には、京都市上京区に闇斎塾を開きました。寛文5年（1665年）には江戸に下り、会津藩主・保科正之の賓師として迎えられました。また、吉川惟足に師事し、神道研究に本格的に取り組み、従来の神道と儒教を融合させた垂加神道を確立しました。藩政への助言を行う一方で、領内の寺院や神社の整理を行い、神仏習合を排除しました。

天和2年（1682年）に亡くなり、その墓は京都市左京区の金戒光明寺にあります。

思想

闇斎の思想は、朱子学と神道を融合させた独自のものです。朱子学においては、君臣の秩序を絶対視し、易姓革命を否定しました。神道においては、人間の心（心神）は天神と同源であるという思想に基づき、自らの心神を自宅の祠に祀りました（生祀）。この祠は後に下御霊神社の境内に遷座し、猿田彦神社に合祀され、現存しています。

門人

闇斎の門下からは、佐藤直方、浅見絅斎、三宅尚斎、植田艮背、遊佐木斎、谷秦山、正親町公通、出雲路信直、土御門泰福、安井算哲（渋川春海）など、多くの優れた人材が輩出されました。彼らの系統は「崎門学派」と呼ばれています。しかし、思想的な対立から破門・絶縁された弟子も多く、「林家の阿世、崎門の絶交」と言われるほど、林家（儒学者の一派）とは対照的な存在でした。

著書

闇斎の主な著書には、『文会筆録』、『倭鑑』、『伊勢神宮儀式序』、『闢異』、『垂加文集』、『神代巻風葉集』、『中臣祓風水草』などがあります。

影響

闇斎の思想は、幕末の尊王攘夷運動に大きな影響を与えました。特に、尊王思想は、水戸学や国学と並び、明治維新の原動力の一つとなりました。また、彼の神道思想は、神仏分離や国家神道の形成にも影響を与えました。

山崎闇斎は、その独自な思想と行動を通して、日本の思想史に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。

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