稲都村

稲都村（いなみやむら）

千葉県安房郡に、かつて存在した村です。現在の南房総市の中央部に位置しており、かつての三芳村の領域に相当する地域に置かれていました。昭和28年（1953年）に自治体合併により廃止され、その名前は現在、公的な地名としては残っていません。

名称の由来と変遷

「稲都」という漢字表記には、「稲が豊かに実り、あたかも都のような繁栄を迎える」といった、縁起の良い意味合いが込められており、瑞祥地名としての性格を有していました。一方、村名の読み方である「いなみや」については、村が発足するにあたって合併した四つの村、すなわち池ノ内村、中村、御庄村、山名村のそれぞれの名称の頭文字（いけのうち、なか、みしょう、やまな）を組み合わせたものと伝えられています。

村が廃止された後も、「稲都」の名を冠した施設として南房総市立稲都公民館が存在していましたが、これも時代と共にその役割を終え、現在では御庄地区が管理する御庄集会所と改称されました。このように、かつてこの地を指し示した「稲都」という名前は、今ではその名残を示すものがほとんど見られない状況となっています。

地理と風土

稲都村の村域は、北東から南西へと流れる山名川によって形成された比較的開けた盆地を中心に広がっていました。周囲を丘陵に囲まれた地形であり、肥沃な土壌と川の水を利用した稲作をはじめとする農業が古くから営まれ、地域の主要な産業となっていました。盆地特有の地形は、集落の形成にも影響を与え、田畑の間に点々と民家が連なる風景が見られました。

沿革

稲都村は、明治時代に行われた町村制の施行に伴い誕生しました。具体的には、1889年（明治22年）4月1日に、それまで独立した村であった池ノ内村、中村、御庄村、山名村の四つの村が合併して発足しました。これにより、これらの地域は一つの自治体として新たなスタートを切ることとなりました。

村制が敷かれてから約60年が経過した昭和時代中期、日本の地方行政はさらなる効率化を目指した町村合併を推進しました。このような流れの中で、稲都村も周辺自治体との合併を検討することになります。そして、1953年（昭和28年）5月1日、稲都村は隣接する滝田村、国府村と合併し、新たに三芳村が誕生しました。この合併をもって、稲都村は自治体としてはその歴史に幕を下ろしました。

その後、三芳村は平成の大合併と呼ばれる市町村合併の流れに乗ることになります。2006年（平成18年）3月20日、三芳村は富浦町、富山町、白浜町、千倉町、丸山町、和田町といった安房郡内の他の六つの町・村と合併し、現在の南房総市が新設されました。稲都村が存在した地域は、この南房総市の一部として現在に至っています。

稲都村の歴史は、明治の町村制による近代自治体の成立から、昭和の合併による発展、そして平成の広域合併による現代の南房総市への統合という、日本の地方行政の変遷を辿る一つの例ということができます。かつての村の姿は公的な記録や歴史の中にのみ存在しますが、その土地の記憶は、今もそこに暮らす人々の生活の中に受け継がれています。

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