富山町
かつて千葉県安房郡に存在した富山町（とみやままち）は、房総半島の南部に位置し、館山都市圏を構成する一自治体でした。この町は、2006年（平成18年）3月20日に、周辺の富浦町、三芳村、丸山町、和田町、千倉町、白浜町といった安房郡内の六つの町・村と新設合併したことで、新たに南房総市が誕生したため、その名は行政上消滅しました。
富山町の地理的な特徴は、その中心にそびえる富山（標高349.5m）によって象徴されます。この山は町の名の由来であるだけでなく、『南総里見八犬伝』の主要な舞台としても知られています。町の西側は穏やかな東京湾に面しており、長い砂浜が連なる海岸線が広がっています。夏には岩井海岸などが海水浴場として人気を集め、水質の良さから多くの海水浴客で賑わい、沿岸部には民宿が数多く立ち並んでいました。また、この砂浜はウミガメが産卵に訪れる場所でもありました。一方で、過去には元禄地震による大津波で大きな被害を受けた歴史も持っています。
富山から東へは房総丘陵の緑豊かな山並みが続いており、この丘陵地の斜面を利用して、温州みかんの段々畑や美しい棚田が築かれていました。これらの地形や気候を生かした農業は町の主要な産業の一つであり、特に酪農や、千葉県内で有数の規模を誇った和牛の生産が盛んに行われていました。
合併後の現在も、かつての主要な地区であった「岩井」や「平群」といった名称は、行政区画としての正規の名称ではないものの、地域住民の間では日常的に地名として使われ続けています。広報誌などでも「岩井地区」「平群地区」といった表現が見られることがあります。
富山町は、昭和の大合併期にあたる1955年（昭和30年）2月11日、従前の岩井町と平群村が合併して新たな町として誕生しました。町政運営の中で、地域社会の活性化や住民サービスの向上に向けた取り組みが進められました。1992年（平成4年）2月26日には、町の理念を示す町民憲章が制定されました。交通の要衝であるJR内房線の岩井駅は、1997年（平成9年）3月22日に新しい駅舎が完成し、利用環境が改善されました。また、同年10月1日には町営路線バス「トミー」の運行が始まり、町内の公共交通網が整備されました。住民の健康と福祉を支える拠点として、2003年（平成15年）3月27日には保健福祉センターが完成。同年の4月25日には、地域の情報発信や交流促進、特産品販売などを目的とした道の駅富楽里とみやまが開設され、地域活性化に貢献しました。
そして、平成の大合併によって周辺自治体との統合が決まり、南房総市が誕生する直前の2006年（平成18年）2月26日には、町の歩みを振り返る閉町式が執り行われました。そして同年3月20日、富浦町、白浜町、千倉町、丸山町、和田町、三芳村との合併が実施され、富山町は法的に消滅し、新たな南房総市の一部となったのです。
富山町の産業は、農業と漁業が中心でした。農業では、前述の通り和牛の生産や酪農が重要な位置を占めていました。温暖な気候を活かした果樹栽培も盛んで、特にビワは特産品として知られ、収穫期には国道沿いに多くの直売所が開設されました。ビワの豊作年には、それを使った「富山町伏姫ワイン」も製造されるなど、地域ならではの試みも行われました。温州みかんも栽培され、観光みかん園は多くの観光客で賑わいました。その他、水仙や紅梅といった花卉も栽培され、冬から春にかけて出荷されていました。
漁業においては、高崎漁港や小浦漁港といった漁港があり、沿岸漁業が行われていました。
教育機関としては、かつて富山町立岩井小学校と富山町立平群小学校がありましたが、2012年（平成24年）4月に統合されて富山小学校となりました。さらに、小中学校の一貫教育を目指す動きが進み、2013年（平成25年）5月から一体型校舎の建設が始まり、2016年（平成28年）4月には小中一貫校として富山小学校と富山中学校が開校しました。2017年（平成29年）4月には、旧富山保育所と富山幼稚園も加わり、「富山子ども園」として、保幼小中一貫教育を実践する南房総市立「富山学園」として再編されました。
また、町内には東京都の区が設置した教育関連施設も複数立地しており、練馬区立少年自然の家（後に一般利用も開放）、文京区立岩井学園、北区立岩井学園、渋谷区立臨海学園などが、主に学童の学習や体験活動に利用されていました。
町内の交通は、JR東日本内房線が主要な鉄道路線であり、岩井駅がその中心駅でした。岩井駅は、『南総里見八犬伝』の世界観を取り入れ、1993年（平成5年）には伏姫と八房のブロンズ像が設置され、1997年（平成9年）には新しい駅舎が供用を開始しています。道路としては、国道127号が海岸沿いを走り、町を縦断する主要な幹線道路でした。また、富津館山道路の一部も町域を通過しており、自動車での広域アクセスも比較的容易でした。
富山町は、『南総里見八犬伝』ゆかりの地として、物語に関連する名所・旧跡が数多く点在しています。町名の由来であり物語の舞台である富山はもちろん、犬掛地区には里見義通や里見義豊の墓所、犬掛の合戦場跡があります。特に、物語冒頭の重要な舞台である伏姫籠穴は、洞穴内に八つの霊玉などが配され、1997年（平成9年）に周辺整備が完了して以降、多くの文学ファンや観光客が訪れました。また、伏姫を偲ぶ「伏姫まつり」も毎年開催され、地域の重要な行事となっていました。
八犬伝以外にも、古くからの歴史を伝える遺跡があります。恩田原遺跡では、1997年（平成9年）に古代の印鑑である「王泉私印」が出土したことで注目され、周辺には恩田原古墳群も広がっています。また、谷口横穴群も古代の墳墓として知られています。2003年（平成15年）に開業した道の駅富楽里とみやまは、地域の特産品の販売や観光情報の提供、交流の場として多くの人々が立ち寄る拠点となりました。
年間を通じていくつかの祭事も行われていました。10月には平群の天神社祭礼があり、夜には花火が打ち上げられ、特に牛の形をした花火が登場することで知られています。また、8月の第3土曜日には岩井地区祭礼が開催され、夏の町を盛り上げていました。
文化的な側面では、富山町が映画の舞台となったこともあります。『ゴジラ×メカゴジラ』では、千葉県道89号鴨川富山線での特生自衛隊とゴジラとの戦闘シーンが描かれており、ロケ地としても知られています。
2006年の合併により富山町という名は行政区分としては失われましたが、その豊かな自然環境、『南総里見八犬伝』に彩られた歴史や文化、そしてそこで育まれた人々の営みは、南房総市の一部として今も地域に深く根付いています。
地勢と自然環境
富山町の地理的な特徴は、その中心にそびえる富山（標高349.5m）によって象徴されます。この山は町の名の由来であるだけでなく、『南総里見八犬伝』の主要な舞台としても知られています。町の西側は穏やかな東京湾に面しており、長い砂浜が連なる海岸線が広がっています。夏には岩井海岸などが海水浴場として人気を集め、水質の良さから多くの海水浴客で賑わい、沿岸部には民宿が数多く立ち並んでいました。また、この砂浜はウミガメが産卵に訪れる場所でもありました。一方で、過去には元禄地震による大津波で大きな被害を受けた歴史も持っています。
富山から東へは房総丘陵の緑豊かな山並みが続いており、この丘陵地の斜面を利用して、温州みかんの段々畑や美しい棚田が築かれていました。これらの地形や気候を生かした農業は町の主要な産業の一つであり、特に酪農や、千葉県内で有数の規模を誇った和牛の生産が盛んに行われていました。
合併後の現在も、かつての主要な地区であった「岩井」や「平群」といった名称は、行政区画としての正規の名称ではないものの、地域住民の間では日常的に地名として使われ続けています。広報誌などでも「岩井地区」「平群地区」といった表現が見られることがあります。
歴史的な変遷
富山町は、昭和の大合併期にあたる1955年（昭和30年）2月11日、従前の岩井町と平群村が合併して新たな町として誕生しました。町政運営の中で、地域社会の活性化や住民サービスの向上に向けた取り組みが進められました。1992年（平成4年）2月26日には、町の理念を示す町民憲章が制定されました。交通の要衝であるJR内房線の岩井駅は、1997年（平成9年）3月22日に新しい駅舎が完成し、利用環境が改善されました。また、同年10月1日には町営路線バス「トミー」の運行が始まり、町内の公共交通網が整備されました。住民の健康と福祉を支える拠点として、2003年（平成15年）3月27日には保健福祉センターが完成。同年の4月25日には、地域の情報発信や交流促進、特産品販売などを目的とした道の駅富楽里とみやまが開設され、地域活性化に貢献しました。
そして、平成の大合併によって周辺自治体との統合が決まり、南房総市が誕生する直前の2006年（平成18年）2月26日には、町の歩みを振り返る閉町式が執り行われました。そして同年3月20日、富浦町、白浜町、千倉町、丸山町、和田町、三芳村との合併が実施され、富山町は法的に消滅し、新たな南房総市の一部となったのです。
主要産業
富山町の産業は、農業と漁業が中心でした。農業では、前述の通り和牛の生産や酪農が重要な位置を占めていました。温暖な気候を活かした果樹栽培も盛んで、特にビワは特産品として知られ、収穫期には国道沿いに多くの直売所が開設されました。ビワの豊作年には、それを使った「富山町伏姫ワイン」も製造されるなど、地域ならではの試みも行われました。温州みかんも栽培され、観光みかん園は多くの観光客で賑わいました。その他、水仙や紅梅といった花卉も栽培され、冬から春にかけて出荷されていました。
漁業においては、高崎漁港や小浦漁港といった漁港があり、沿岸漁業が行われていました。
教育と福祉、その他の施設
教育機関としては、かつて富山町立岩井小学校と富山町立平群小学校がありましたが、2012年（平成24年）4月に統合されて富山小学校となりました。さらに、小中学校の一貫教育を目指す動きが進み、2013年（平成25年）5月から一体型校舎の建設が始まり、2016年（平成28年）4月には小中一貫校として富山小学校と富山中学校が開校しました。2017年（平成29年）4月には、旧富山保育所と富山幼稚園も加わり、「富山子ども園」として、保幼小中一貫教育を実践する南房総市立「富山学園」として再編されました。
また、町内には東京都の区が設置した教育関連施設も複数立地しており、練馬区立少年自然の家（後に一般利用も開放）、文京区立岩井学園、北区立岩井学園、渋谷区立臨海学園などが、主に学童の学習や体験活動に利用されていました。
交通網
町内の交通は、JR東日本内房線が主要な鉄道路線であり、岩井駅がその中心駅でした。岩井駅は、『南総里見八犬伝』の世界観を取り入れ、1993年（平成5年）には伏姫と八房のブロンズ像が設置され、1997年（平成9年）には新しい駅舎が供用を開始しています。道路としては、国道127号が海岸沿いを走り、町を縦断する主要な幹線道路でした。また、富津館山道路の一部も町域を通過しており、自動車での広域アクセスも比較的容易でした。
名所・旧跡・観光・祭事
富山町は、『南総里見八犬伝』ゆかりの地として、物語に関連する名所・旧跡が数多く点在しています。町名の由来であり物語の舞台である富山はもちろん、犬掛地区には里見義通や里見義豊の墓所、犬掛の合戦場跡があります。特に、物語冒頭の重要な舞台である伏姫籠穴は、洞穴内に八つの霊玉などが配され、1997年（平成9年）に周辺整備が完了して以降、多くの文学ファンや観光客が訪れました。また、伏姫を偲ぶ「伏姫まつり」も毎年開催され、地域の重要な行事となっていました。
八犬伝以外にも、古くからの歴史を伝える遺跡があります。恩田原遺跡では、1997年（平成9年）に古代の印鑑である「王泉私印」が出土したことで注目され、周辺には恩田原古墳群も広がっています。また、谷口横穴群も古代の墳墓として知られています。2003年（平成15年）に開業した道の駅富楽里とみやまは、地域の特産品の販売や観光情報の提供、交流の場として多くの人々が立ち寄る拠点となりました。
年間を通じていくつかの祭事も行われていました。10月には平群の天神社祭礼があり、夜には花火が打ち上げられ、特に牛の形をした花火が登場することで知られています。また、8月の第3土曜日には岩井地区祭礼が開催され、夏の町を盛り上げていました。
文化的な側面では、富山町が映画の舞台となったこともあります。『ゴジラ×メカゴジラ』では、千葉県道89号鴨川富山線での特生自衛隊とゴジラとの戦闘シーンが描かれており、ロケ地としても知られています。
2006年の合併により富山町という名は行政区分としては失われましたが、その豊かな自然環境、『南総里見八犬伝』に彩られた歴史や文化、そしてそこで育まれた人々の営みは、南房総市の一部として今も地域に深く根付いています。
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