忌み

忌み（いみ）

「忌み」とは、神に対して身を清め、穢れを避けて慎むことを意味します。斎戒とも言い換えられます。また、転じて、忌み避けるべきこと、つまり禁忌や、はばかりを指す言葉としても用いられます。平安時代以降の用例では、禁忌の意味合いで使われることが多くなっています。

概略

基本的に、生活圏に悪影響を及ぼす穢れを嫌い、排除することを指します。台風や大雨、日照り、地震などの自然災害も不浄、穢れとされ、地鎮祭などの祓えの儀式で清められ、鎮められると考えられていました。

神事における忌み

神宮などでは、神事の際に忌火（いみび）と呼ばれる火を起こします。これは、火が持つ「他を焼き無くしてしまう」という性質が、穢れの概念、つまり「不浄」「不潔」と同様に、神や人間の結界、生活圏を脅かすものを焼き尽くして亡ぼすと考えられているためです。火の恒常的な在所であるかまども穢してはならないため、かまどを別にするなどの措置がとられました。オリンピックの聖火も、古代ギリシアまで遡ると神殿の忌み火に起源を持つとされています。

枕草子には「近き火、また恐ろし」とあり、現代でも「マッチ一本火事の元」という言葉があるように、火は危険物としても認識されてきました。そのため、火を鎮める火伏せの神様、火防尊（ひぶせのみこと）などが信仰の対象となってきました。鎮火という表現もあります。古事記によると、イザナミは火の神（ホノカグツチノカミ）を産んだために陰所を焼かれ、それが元で死に、黄泉の国に下ることになります。この神話が延喜式に定められた鎮火祭の祝詞にも出てくる所以です。

例外もありますが、平安時代以降の神道における死は、穢れ（黒不浄）としての「忌み」であり、神はそれを嫌うとされています。そのため、神社内や敷地内に遺体を持ち込んで葬儀を行うことはありませんし、家庭の神棚は半紙を被せ、神の目に触れないようにします。死（黒不浄）、経血（赤不浄）、出産（白不浄）は、神様が嫌う不浄として避けられてきました。明治以前の神道における穢れの基準は「延喜式」に詳しく記されています。

これらの伝統的な穢れ観は、明治政府の近代化（富国強兵政策）によって大きく変わることになります。戦死を穢れから名誉へ、個人の問題であった出産を「産めよ増やせよ」の国家事業へ、そしてそれを遂行する女性を褒めるという流れに対応するため、近代以降はこれらの穢れ観は因習とみなされ、後退していきました。

用例

忌み嫌う - 穢れを払うように嫌うこと。忌避。
忌み名 - 清楚な名、神仏となった本当の名。（臣下や目下の者が口外するのを忌むべき）本名（諱）。
忌中 - 穢れの最中。
奈良時代の忌部氏（いんべし。後の斎部氏）は宮中の神事を行っていました。忌（いん）は清楚という意味でもありますが、平安時代以降はほとんどの場合否定的な意味で使用されています。

関連項目

禁忌（タブー）
忌避
忌寸（いみき）
小忌衣（おみごろも）
物忌み
忌宮神社
忌日
忌み言葉
* 忌み小屋

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