空っぽの少年

『ドクター・フー』シリーズ1第9話「空っぽの少年」： 戦慄のロンドン大空襲と謎の少年

イギリスのSFドラマ『ドクター・フー』シリーズ1の第9話「空っぽの少年」（原題:The Empty Child）は、2005年5月21日にBBC Oneで放送されました。このエピソードは、後の番組総責任者にして主要脚本家となるスティーブン・モファットが初めて手掛けた作品であり、監督はジェームズ・ヘイヴスが務めました。続く第10話「ドクターは踊る」と合わせて二部作を構成しています。

物語は、1941年のロンドン大空襲の真っ只中へとタイムトラベルした9代目ドクターと彼のコンパニオン、ローズ・タイラーを描いています。彼らは、街を徘徊する奇妙な少年の存在に遭遇します。この少年はガスマスクを着用しており、助けを求めるかのように「ママ」と繰り返し叫びながら彷徨っています。この不可解な少年の出現が、物語全体を不穏な空気に包み込みます。

このエピソードでは、後に『ドクター・フー』シリーズに再登場し、スピンオフシリーズ『秘密情報部トーチウッド』の主人公となるキャプテン・ジャック・ハークネスが初登場します。ジョン・バロウマンが演じるハークネスは、ドクターとローズの前に現れ、物語に新たな展開をもたらします。彼の登場は、単なるゲスト出演の枠を超え、『ドクター・フー』の物語に大きな影響を与えました。

「空っぽの少年」は、イギリスで711万人の視聴者を獲得し、大きな話題を呼びました。多くの批評家は、この二部作をシリーズ最高傑作の一つとして高く評価し、2006年にはヒューゴー賞映像部門短編部門を受賞しています。その高い評価は、緻密な脚本と演出、そして独特の恐怖表現によるところが大きいでしょう。

製作秘話：脚本から撮影まで

脚本を担当したスティーブン・モファットは、DVDコメンタリーの中で、ローズが『スタートレック』のスポックに言及するシーンについて、当初は「スタートレックよりドクター・フーが好きだ」というメタフィクション的な要素を含める予定だったと明かしています。また、チューラの船という設定は、モファットとラッセル・T・デイヴィスが脚本会議を行ったインドとバングラデシュ料理の店「チューラ」に由来しています。この会議の様子はビデオ録画されており、DVDに収録されています。

さらにモファットは、ドクターのソニック・スクリュードライバーをモチーフにした、ジャックのソニック・ブラスターを考案しました。これは、モファット自身のアイデアによる独自の武器であり、物語に新たな要素を加えています。

撮影は、ウェールズのバリー島鉄道で行われました。バリー島と、現在は取り壊されたリゾートButlinsのホリデイキャンプは、かつて7代目ドクターのシリーズでもロケ地として使用されていた場所です。また、制作段階では、ドクター・コンスタンチンの顔がガスマスクに変形する際の、頭骨が割れる効果音が収録されましたが、あまりにも恐ろしいとの判断から放送前にカットされたというエピソードも残されています。しかし、DVDコメンタリーでは、この効果音の使用は最終的に見送られたとモファット自身が語っています。

放送と視聴者の反応、そして批評家の評価

「空っぽの少年」の放送では、次回予告はエンドクレジットの後ではなく前に流されました。これは、前のエピソードで起こったネタバレ問題への対策として行われた変更であり、この手法は後の二部作でも採用されています。また、カナダ放送協会によるカナダでの放送や、UKTV Gold、アメリカのSyfyでの放送では、キャプテン・ジャックがナノジーンについて説明するシーンの音声が一部削除されているという不思議な現象も発生しました。この変更の理由は現在も不明です。

放送当日の視聴者数は660万人を記録し、最終的な視聴者数は711万人に達しました。日本でもNHK衛星放送、地上波、LaLa TVで放送され、高い人気を獲得しました。

批評家の反応も概ね高く、『SFX』誌は本二部作を高く評価し、特にモファットの脚本を称賛しました。多くの批評家が、このエピソードの恐怖表現と、リチャード・ウィルソンによるドクター・コンスタンチンの怪演を絶賛しています。一方で、キャプテン・ジャックを演じたジョン・バロウマンの演技を否定的に評価する声もありました。それでもなお、『Doctor Who Magazine』誌の人気投票で上位にランクインするなど、高い評価を得続けています。2006年には、「ドクターは踊る」とともにヒューゴー賞映像部門短編部門を受賞しました。

「空っぽの少年」は、単なるSFドラマの枠を超え、優れた脚本、演出、そして俳優陣の熱演によって、視聴者に強い印象を残したエピソードであると言えるでしょう。このエピソードは、『ドクター・フー』シリーズの中でも特に高く評価されており、シリーズを代表する名作の一つとして語り継がれています。

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