ドクターは踊る

「ドクターは踊る」：1941年ロンドンの謎と生命賛歌

「ドクターは踊る」(原題: The Doctor Dances)は、2005年にBBC Oneで放送されたイギリスのSFテレビドラマ『ドクター・フー』シリーズ1の第10話です。前話「空っぽの少年」と二部作を形成しており、1941年のロンドンを舞台に、異星人のタイムトラベラーである9代目ドクターとコンパニオンのローズ・タイラー、そして詐欺師のジャック・ハークネス、ホームレスの女性ナンシーらが、不可解な事件に巻き込まれていきます。

物語は、墜落した宇宙船の調査から始まります。その直後、病院の患者たちがガスマスクをつけたゾンビのような姿に変貌するという衝撃的な出来事が発生します。ドクターたちは、この不可解な現象の謎を解き明かすため奔走し、その過程で、高度なナノテクノロジーが絡んでいることを突き止めます。

このエピソードでは、ジャック・ハークネスが初めてターディスに乗り込み、ドクターたちと共に冒険に参加する重要な展開が見られます。シリーズを通して人気の高いキャラクターであるジャックが、ドクターの旅に本格的に加わるきっかけとなったエピソードと言えるでしょう。

制作秘話：脚本から撮影、そして放送まで

脚本家スティーヴン・モファットは、当初、物語に登場するナノテクノロジーを「ナニテス(nanites)」と呼んでいましたが、脚本編集のヘレン・レイナーから、それが『新スタートレック』に登場するナノテクノロジー機器の名前と酷似しているという指摘を受け、変更せざるを得ませんでした。また、劇中で使用された「生命は肉の鮮度を保つ自然の方法」という台詞は、モファットが以前手がけたシチュエーション・コメディで既に使用していたものであり、彼はこの台詞への愛着から本作でも再利用しましたが、視聴者からの引用がオリジナル作品ではなく「ドクターは踊る」から行われていることに、複雑な思いを抱いていると語っています。

興味深いのは、宇宙船の名前「チューラ」の由来です。それは、モファットとデイヴィスが脚本の議論などを行っていたインドとバングラデシュの多国籍料理店にちなんで名付けられました。

クライマックスシーンはウェールズのバリー島で撮影されました。一方で、劇中に登場するジェイミーの声は磁気テープに録音されていますが、これは時代考証上のミスです。磁気テープの技術がドイツ以外に普及したのは第二次世界大戦後であり、当時のイギリスではワックスディスクが一般的だったためです。モファット自身もこのミスをDVDコメンタリーで認めており、「3代目または4代目ドクターのコンパニオンであったレスブリッジ・スチュワート准将の先祖が戦果を挙げるためドイツから盗んできたのだ」とユーモラスに説明しています。

放送と高い評価：視聴率から賞受賞まで

「ドクターは踊る」は、初放送時に617万人の視聴者数を獲得し、番組視聴占拠率は35.9%に達しました。これはシリーズ最低の数字ではありましたが、法定休日に放送されたことを考慮すると、土曜日に放送された番組としては最高の視聴率でした。最終的な視聴者数は686万人に増加しました。日本でもNHK衛星放送や地上波、LaLa TVで放送され、多くの視聴者から高い評価を得ました。

専門誌からの評価も高く、『SFX』誌は本二部作を絶賛し、特にモファットの脚本を称賛しました。彼らは、感動的な結末を「面白く、サプライズに満ち、心が温まり、しつこい感傷主義に陥ることなく生命賛歌を成し遂げた」と評しています。『デジタル・スパイ』誌は、ジャック役の俳優の演技については否定的でしたが、二部作全体をシリーズ最高のエピソードの一つと位置づけています。

「ドクターは踊る」は、2005 TV Moments の「Golden Moment of 2005」にも選ばれ、様々なメディアで高い評価を得てきました。『Doctor Who Magazine』誌の投票では5位、『デイリー・テレグラフ』誌では番組で4番目に優れたエピソードに選ばれ、『ハフポスト』誌では新規視聴者におすすめの5エピソードの一つとして選出されています。そして、「空っぽの少年」と共に2006年ヒューゴー賞映像部門短編部門を受賞するという栄誉にも輝きました。

「ドクターは踊る」は、スリリングな展開と感動的なストーリー、そして制作の裏側にある興味深いエピソードによって、多くの視聴者の記憶に深く刻まれている『ドクター・フー』シリーズの傑作の一つと言えるでしょう。

もう一度検索