空閑昇

空閑昇：上海事変と名誉の狭間で散った陸軍少佐

空閑昇（くが のぼる）は、明治20年（1887年）に佐賀県佐賀市で生まれた陸軍軍人です。龍造寺家の血を引く家柄に生まれ、幼い頃から軍人の道を志しました。

軍歴

広島陸軍地方幼年学校、中央幼年学校を経て、明治43年（1910年）に陸軍士官学校を卒業。歩兵少尉に任官後、歩兵第69連隊に配属され、青島守備やシベリア出兵などを経て、着実にキャリアを重ねていきます。大正14年（1925年）には陸軍歩兵学校甲種を卒業し、中隊長や射水中学校配属将校などを歴任。昭和3年（1928年）には陸軍少佐に進級し、エリート軍人としての道を歩んでいました。

第一次上海事変と捕虜

昭和7年（1932年）に勃発した第一次上海事変に出征。空閑が所属する歩兵第7連隊は、江湾鎮正面の敵陣地を攻撃する任務に就きます。しかし、激しい抵抗に遭い戦況は膠着。連隊は夜襲を敢行しますが、中国軍の待ち伏せに遭い大損害を受け、空閑自身も重傷を負い人事不省に陥ります。その後、国民革命軍に収容され、捕虜となります。

捕虜となった空閑は、敵軍の病院で手厚い看護を受けます。捕虜となったことを恥じ自決を考える空閑に対し、甘海瀾少校は生きて再起するよう説得しました。その後、日中間の捕虜交換によって日本に帰還を果たします。

帰還後の苦悩と自決

しかし、日本に帰還した空閑を待っていたのは、厳しい世間の批判でした。「生きて虜囚の辱めを受けるな」という当時の価値観から、捕虜となった空閑は国民から非難され、軍内部からも冷遇されます。同期生からは自決を勧める電報が届き、自宅には投石などの嫌がらせが行われました。

苦悩の末、部下らの戦没五七日忌にあたる昭和7年3月28日、空閑は自らが率いた部隊が激戦を繰り広げた地を訪れ、自決しました。その死は、当時の社会に大きな衝撃を与え、美談として報道される一方で、軍人としての名誉を重んじる価値観と、人間としての苦悩の狭間で葛藤した悲劇の象徴として語り継がれています。

死後

空閑の死後、その功績が認められ、勲四等に叙せられ靖国神社に合祀されました。また、彼の生涯は映画や小説にもなり、多くの人々に影響を与えました。

空閑昇の生涯は、戦争の悲惨さ、軍人の名誉、そして人間の尊厳について、私たちに深く考えさせる出来事です。

関連作品

映画「空閑少佐」（1932年）
映画「散り行く大和櫻 空閑少佐」（1932年）
* 映画「大和魂空閑少佐」（1932年）

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