窪川健造

窪川 健造（くぼかわ けんぞう）

日本の映画監督であり、主にテレビドラマの演出家として長年にわたり活躍しました。1930年2月10日に生を受け、2015年8月6日に85歳で逝去。その生涯は、日本の文壇を代表する二人の巨星、文芸評論家・窪川鶴次郎と作家・佐多稲子を両親に持つという稀有な環境から始まりました。

幼少期から文学や芸術に囲まれた環境で育った窪川健造は、東京大学文学部仏文学科に進み、1953年に卒業しました。大学卒業後、日本のインディペンデント映画の拠点の一つであった近代映画協会に入所。ここでは、『裸の島』などで知られる新藤兼人監督や、『無法松の一生』などの吉村公三郎監督という、日本映画史に大きな足跡を残した二人の巨匠に師事しました。この時期、新藤兼人監督の初期の代表作であり、広島の原爆被害をテーマにした重要なドキュメンタリードラマ『原爆の子』（1952年公開）には、助監督として製作に携わっています。これは、彼の映像作家としての出発点の一つとなりました。

映画監督としてのデビューは、1960年に近代映画協会が製作した『手をつないで』でした。この作品は、社会的な関心を集めた松川事件に関わる人々、特にその家族の苦難をリアリスティックに描いたものです。その後も、共同映画社で『わらし子とおっかあたち』（1962年）、そしてテレビドラマ版に先行する形で東映で『チャコとケンちゃん』（1969年）といった劇映画を監督しました。

しかし、彼の活動の主軸は、次第にテレビの世界へと移っていきます。特定のプロダクションに縛られないフリーランスの演出家として、1960年代後半から1980年代にかけての日本のテレビドラマ黄金期において、彼は数多くの人気作品の演出を手掛けました。

特に子供向けドラマとして親しまれた「チャコちゃんシリーズ」では、人気作『チャコねえちゃん』（1967年〜1968年、TBS）の最終回を含む複数回を担当し、続くシリーズ最終作『チャコとケンちゃん』（1968年〜1969年、TBS）でも演出を手掛け、シリーズの成功に貢献しました。

また、時代劇においても重要な役割を担いました。中村敦夫主演で社会現象ともなった『木枯し紋次郎』（1972年、フジテレビ）では、第1シリーズの初期エピソードである第4話や、物語の鍵となる第13話の演出を担当し、シリーズ独自の乾いた雰囲気を確立する一助となりました。さらに、池波正太郎原作の人気シリーズ『剣客商売』（1973年、フジテレビ、加藤剛・山形勲版）の演出も手掛けています。

現代劇や文芸作品のドラマ化においても、その手腕は高く評価されました。『鉄平と順子』（1972年〜1973年、日本テレビ）では全15話中7話を演出、『陽はまた昇る』（1973年、フジテレビ）では全11話中5話を担当しました。また、森光子主演で伝説的な舞台となった林芙美子原作の『放浪記』（1974年、TBS）のテレビドラマ化においては、全40話の半分にあたる20話もの演出を担当し、長期シリーズのクオリティ維持に貢献しました。

彼の演出家としての功績は、賞によっても裏付けられています。1978年に東海テレビが製作し、フジテレビ系列で放送された単発ドラマ『雪山讃歌・ある青春〜立てた!滑れた!』は、第1回赤十字映画祭テレビ映画部門で最優秀賞を受賞するという栄誉に輝きました。さらに、1980年にはTBSで放送されたドラマ『愛とおそれと』の演出を担当しましたが、この作品は実母である作家・佐多稲子の同名小説を原作としており、母子の芸術家としての絆を示すエピソードとして特筆されます。

映像の世界で活躍する一方で、窪川健造は文筆家としても活動しました。特に、母・佐多稲子についての深い洞察を含む随筆をいくつか発表しています。1999年には、佐多稲子没後に『母・佐多稲子を送りて』（中央公論）や『女文学者の「家」』（新日本文学）を寄稿。2004年の『墓前に佇ちて ─ 母・佐多稲子の映画往来』（新日本文学）は、後に論集『佐多稲子と戦後日本』に再録されるなど、文学者としての母の生涯や作品、そして母との関係性について、映像作家とは異なる視点からの思索を深めました。

2015年8月6日、窪川健造は骨髄異形成症候群のため、東京都新宿区の自宅にて静かに息を引き取りました。85歳でした。映画監督として、そしてテレビドラマ演出家として、日本の映像史に確かな足跡を残した彼の作品は、今も多くの人々に記憶されています。

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