立山権現

立山権現：山岳信仰と修験道の融合、そして終焉

立山権現は、富山県にある立山を舞台とした山岳信仰と修験道の融合によって生まれた神仏習合の神です。阿弥陀如来をその本地仏（本来の姿）として信仰されました。その起源は、大宝元年（701年）に遡ります。佐伯有頼（慈興）という人物が立山で鷹狩りをしていた際、阿弥陀如来の化身である熊に出会い、神験を体験したことが始まりと伝えられています。この出来事が、立山における修験道の開山と、立山権現信仰の始まりを告げるものとなりました。

大宝3年（703年）3月15日には、教興上人に立山で十二体の権現が現れたとされ、それぞれに阿弥陀如来の様々な化身が祀られました。具体的には、一社は無量光仏、二社は無辺光仏、三社は無礙光仏、四社は無対光仏、五社は炎王光仏、六社は清浄光仏、七社は歓喜光仏、八社は智恵光仏、九社は不断光仏、十社は難思光仏、十一社は無称光仏、十二社は超日月光仏という、阿弥陀如来の様々な姿を象徴する仏たちが祀られていました。これらの権現は、立山信仰の中核を成す重要な存在でした。

江戸時代に入ると、芦峅衆徒（あしわだじゅうと）と呼ばれる修験道の集団が、立山権現信仰を全国に広める上で大きな役割を果たしました。彼らは、各地を巡り、布教活動を行い、立山権現の信仰を広く浸透させていきました。この活動によって、立山権現は、地域を超えた広大な信仰のネットワークを築き、多くの信者を集めるに至ったのです。

しかし、明治維新後の神仏分離・廃仏毀釈によって、立山権現信仰は大きな転換期を迎えることになります。明治政府は、神道と仏教の分離を政策として推進し、修験道は弾圧の対象となりました。この政策によって、立山権現信仰は衰退の一途を辿ります。明治2年（1869年）には、芦峅寺と岩峅寺という重要な寺院が廃寺となり、雄山神社へと改組を余儀なくされました。さらに、立山修験道の重要な儀式であった布橋大灌頂や、立山権現信仰の布教活動は禁止されてしまいました。

こうして、長きに渡り人々の信仰を集めてきた立山権現は、明治政府の政策によってその歴史に幕を閉じました。かつて盛大に行われていた信仰行事は姿を消し、立山権現は歴史の影へと退いていったのです。しかし、立山権現がかつて存在し、人々の信仰を集めていたという事実は、立山の歴史、そして日本の山岳信仰の歴史において、重要な一ページを刻んでいると言えるでしょう。現在も立山には雄山神社があり、山岳信仰の伝統が受け継がれていますが、かつての立山権現信仰の姿を知るには、歴史資料に頼るしかありません。

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