芦峅寺

芦峅寺：立山信仰の歴史と文化が息づく地

芦峅寺（あしくらじ）は、富山県中新川郡立山町に位置し、雄大な立山連峰の玄関口として知られています。かつては「雄山神社 中宮祈願殿」という神仏習合の寺院であり、中宮寺とも呼ばれていました。この地は、古くから立山信仰の拠点として栄え、現在もその歴史と文化が色濃く残っています。

立山ガイドのルーツと精神

芦峅寺は、優秀な山案内人や山小屋経営者を数多く輩出してきました。そのルーツは、江戸時代の立山修験の「御師」に遡ると考えられています。彼らは「立山曼荼羅」を用いて多くの人々を霊山立山へと誘い、芦峅寺の宿坊に泊めました。

立山町のガイドは、登山者の間では「勇敢で命懸けで登山者を守る」と評判です。かつては、民間救助隊員として遭難救助に活躍した者も少なくありませんでした。幼い頃から立山信仰とともに生き、山と密接な関わりを持つ生活の中で、自然と山の知恵を学んでいったのです。

「剣の文蔵」と称された佐伯文蔵や、南極での学術観測に協力した佐伯富雄も、芦峅寺出身の著名なガイドです。特に佐伯富雄は、空気の湿り具合や雲の動きから嵐の前兆を察知する能力に長けていました。このような能力は、実際の入山経験を通して自然に培われたものでしょう。

しかし、登山ブームが衰退すると、立山ガイドの仕事も減少し、その存続が危ぶまれるようになりました。そのような状況の中、佐伯富雄の長男である佐伯高男は、1991年に立山ガイド協会の設立に尽力しました。また、自然教育機関「立山自然学校」で子供たちに自然の素晴らしさを伝える活動にも力を注いでいます。映画「劔岳 点の記」では、立山ガイド協会会員が撮影支援を担当しました。

布橋灌頂会：女人救済の祈り

布橋灌頂会（ぬのばしかんじょうえ）は、かつて女人禁制であった霊山立山の代わりに、架け橋を渡って極楽往生を願う立山信仰の伝統的な儀式です。現在では、イベントとして一般公開されています。

灌頂会では、立山に登ることが許されなかった女性たちが、うば堂川にかかる布橋（うば堂御宝前の橋、天の浮橋）と呼ばれる橋を渡り、極楽往生を願います。閻魔堂で懺悔の儀式を行った後、声明や雅楽が流れる中、宿坊の僧侶に導かれ、白装束を身にまとい、白い目隠しをした女人衆が、朱色の欄干の布橋をゆっくりと渡ります。この橋は「あの世」と「この世」の架け橋とされ、煩悩の数と同じ108枚の板で組まれています。言い伝えでは、悪人は龍が口を開けて待っている谷川に転落するとされていました。

橋を渡った先にあるうば堂（現在は「遙望館」）では、閉め切られた堂内の暗闇の中で読経が行われます。その後、女人衆が目隠しを解くと、目の前の壁の覆いが上がり、陽光に照らされた立山が姿を現します。女性たちは静かに手を合わせ、心を新たにします。この儀式は、橋を渡って一旦「あの世」に入り、生まれ変わって「この世」に戻るという「疑死再生」の意味を持っています。

布橋灌頂会は、江戸時代後期に立山信仰の浸透とともに盛んに行われましたが、明治時代の廃仏毀釈によって一時廃止されました。1970年に立山風土記の丘の一施設として復元され、1996年に国民文化祭の一環として復活。2005年以降は、地元住民を中心とした実行委員会が中心となって開催されています。2014年には、130年ぶりに布橋灌頂会を再現したとして、「布橋灌頂会実行委員会」がサントリー地域文化賞を受賞しました。

芦峅寺は、立山信仰の歴史と文化が今も息づく貴重な場所です。その美しい自然と、人々の信仰心に触れてみてはいかがでしょうか。

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