立山水力電気

立山水力電気株式会社

立山水力電気株式会社は、大正時代から昭和戦前期にかけて富山県富山市に本社を置き活動した日本の電力供給事業者です。富山県を流れる早月川の水力を利用した発電事業を展開し、地域の電力需要家や他の電力会社、工場などに電力を供給していました。戦時体制への移行に伴う電力事業の国家管理の流れの中で、1941年（昭和16年）に北陸地方の主要な電力会社群が統合されて成立した北陸合同電気株式会社に吸収合併され、その歴史を終えました。

設立の背景

会社の起源は、医学博士の岸一太氏と元南満州鉄道理事であった犬塚信太郎氏が関わっていた「富山鉱業所」にあります。岸氏が立山連峰の剱岳付近で発見した輝水鉛鉱の採掘事業を計画した際、共同でこの鉱業所を立ち上げました。鉱山開発に必要な動力源を確保するため、両氏は早月川上流の水利権を取得し、自家用発電所の建設計画を進めました。しかし、後に方針を変更し、地元実業家も加わって、特定の工場や事業者への電力供給を主目的とする純粋な電力供給事業会社として設立されることとなりました。こうして、1917年（大正6年）9月7日、富山市に資本金100万円をもって立山水力電気株式会社が創立されました。岸氏と犬塚氏が設立の中心人物であり、主要な株主でもありました。

事業展開と供給先

設立後、会社は早月川における水力開発を進めました。最初に完成した発電所は白萩発電所（出力1,000キロワット）で、1918年（大正7年）5月23日に運転を開始しました。白萩発電所から送電された電力は、早月川下流の中新川郡滑川町（現在の滑川市）にあったカーバイド製造工場である北陸電気工業（後の中越電気工業）へ供給されました。次に、白萩発電所より下流側で中村発電所（出力3,000キロワット）の建設が進められ、1920年（大正9年）8月1日に運転を開始しました。中村発電所からは伏木港まで新たな送電線が建設され、港湾地帯に位置する北海電化工業、北海工業、新宮商行伏木工場といった主要工場へ電力を供給しました。さらに、高岡電灯をはじめとする他の電力会社へも電力を販売するなど、供給先を拡大しました。

資本関係の変化と経営状況

1919年（大正8年）、電力会社の日本水力が送電事業における連携を目的として立山水力電気の株式を取得し、資本関係が生まれました。1921年（大正10年）に日本水力は大手電力会社である大同電力へと発展し、その際に立山水力電気への投資も引き継がれたことで、大同電力が新たな親会社となりました。大同電力は立山水力電気の株式過半数を保有し、1926年（大正15年）には大同電力の幹部であった増田次郎氏が立山水力電気の社長に就任するなど、経営への関与を深めました。

この時期、1926年12月24日には3番目の発電所となる蓑輪発電所（出力3,500キロワット）が運転を開始し、3ヶ所の発電所合計で総発電能力は1万200キロワットとなりました。しかし、翌1927年（昭和2年）以降、電力販売を巡る競争の激化などにより経営状況が悪化し、同年下半期からは普通株式に対して無配を余儀なくされました。大同電力の支援の下、経営再建計画が進められ、1931年（昭和6年）には高利の優先株式の廃止などが行われましたが、無配状態は1935年（昭和10年）4月に配当が再開されるまで続きました。

終焉へ

1938年（昭和13年）1月、親会社であった大同電力は保有する立山水力電気の全株式を富山県の有力電力会社である日本海電気へ譲渡しました。これにより、立山水力電気は大同電力グループから離れ、日本海電気の傘下に入りました。同年1月28日には、日本海電気の山田昌作社長が立山水力電気の社長を兼務することとなりました。

当時、国による電力事業、特に配電部門の統制強化が進められていました。こうした状況下で、山田社長は北陸3県における電力事業の自主的な統合を提唱し、日本海電気や立山水力電気を含む計12社の新設合併による地域新会社の設立が計画されました。この計画に基づき、1941年（昭和16年）8月1日、これら12社が合併して北陸合同電気株式会社が発足しました。この合併により、立山水力電気株式会社は法人として解散・消滅し、その役割を終えました。

同社が建設・運営した白萩、中村、蓑輪の各発電所は、北陸合同電気を経て戦時下の配電統制に伴い北陸配電株式会社へ、そして戦後の電気事業再編成を経て1951年（昭和26年）以降は現在の北陸電力株式会社へと継承され、今日に至るまで稼働しています。また、白萩・中村両発電所の中間に位置する伊折発電所は北陸電力時代に建設されたものですが、これも立山水力電気が1939年（昭和14年）に工事許可を得て建設準備を進めていた計画に基づくものです。

もう一度検索