犬塚信太郎

犬塚 信太郎（いぬづか のぶたろう）は、1874年（明治7年）3月14日に生まれ、1919年（大正8年）12月10日に46歳でその生涯を閉じた、日本の実業家です。

佐賀県に原籍を持ちながらも、東京で初等教育を終えた後、中学へは進まず、1890年に旧制高等商業学校（現在の一橋大学）本科を卒業。わずか17歳で大手商社、三井物産の門を叩きました。

三井物産では、最初の任地である門司支店を皮切りに、ロンドンをはじめとする海外各地で勤務し、シンガポール支店長代理や香港支店長などを歴任。最終的には再び門司支店長に就任しました。ロンドンや東京では、友人たちと共に遊興にふけるといった一面もあったようです。

1906年に南満州鉄道が設立されると、その理事に迎えられます。三井物産門司支店で次席を務めていた部下の相生由太郎も、犬塚によって満鉄に招聘されました。しかし、満鉄内部で勢力図が長州閥から立憲政友会系へと移り変わると、古参理事としてこれと対立するようになります。特に1914年には、伊藤大八副総裁が進める合議制廃止と部局制導入の改正案に強く反対。結果的に、伊藤副総裁や野村龍太郎総裁と共に理事を罷免されることとなりました。

満鉄を離れた後も、犬塚は精力的に活動を続けます。海軍軍人の秋山真之や実業家の芳川寛治らと親交を深め、彼らと共に孫文率いる革命派を物心両面から支援しました。1915年には、日本に亡命していた孫文、陳其美との間で、山田純三郎と共に「日中盟約」締結に立ち会います。さらに1917年には、孫文、張人傑、蒋介石といった中国側の要人と、秋山、芳川、塚原嘉一郎、菊池良一ら日本側の関係者と共に「日支組合規約」を締結するなど、日中関係における重要な役割を果たしました。

また、実業家としての手腕も発揮しました。1917年には岸一太と共に立山水力電気を設立し、その取締役を務めました。その他にも、義父が設立した大湊興業の取締役や、ジョホール護謨栽培の取締役なども歴任しましたが、1919年に46歳という若さで急逝しました。

その死後、1928年には大連の星が浦公園に有志の手によって胸像が建立されました。この時、孫文の後継者である蒋介石は、当時の金額で1,000ドル（約950円40銭）という多額の寄付を行い、除幕式には国民政府代表として祝電を送っています。さらに蒋介石、胡漢民、孫科、戴天仇といった中国国民政府の主要人物からも花輪が贈られました。翌1929年に孫文の遺体が中山陵に移される国葬が行われた際には、「総理奉安委員会」総幹事であった孔祥熙から、犬塚の未亡人であるしのぶ宛てに案内状が出されています。これらの出来事は、中国革命に深く関わった犬塚の存在が、没後もなお日中双方で重要視されていたことを示しています。

親族としては、父の犬塚駒吉が伊万里の陶器商の弟で、江戸の佐賀藩陶磁器販売所責任者を務めた資産家でした。妻のしのぶは、大湊興業などの設立者である鈴木誠作法学博士の長女です。妹のきぬは、逗子なぎさホテル設立者で貴族院議員を務めた岩下家一子爵に嫁いでいます。

栄典として、1909年には清国から二等第一双龍宝星を、1910年にはロシア帝国から星章付第二等神聖スタニスラス勲章を授与されています。その生涯については、娘の視点から描かれた『父と娘の満州―満鉄理事犬塚信太郎の生涯』に詳しい記述があります。

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