立憲民主党 (ロシア)

ロシア立憲民主党（カデット）：理想と現実の狭間で敗れた自由主義政党

ロシア帝国末期、皇帝専制体制下で経済成長が進む一方、その歪みから大衆運動が活発化しました。この状況下、地主貴族や中産階級の専門職層を中心とした自由主義知識人たちは、政治的結集を強めます。1903年には「解放同盟」が結成され、憲法制定や専制打倒を訴える運動が展開されました。

1905年の第一次ロシア革命を受け、皇帝ニコライ2世は国会（国家ドゥーマ）設置を約束。これにより、自由主義勢力による政党結成が加速化しますが、国会が立法権を持たない諮問機関に留まることが明らかになると、多くの自由主義者たちが反発します。しかし、歴史学者パーヴェル・ミリュコーフらは国会を政治闘争の手段と捉え、1905年、解放同盟とゼムストヴォ立憲派同盟が統合して立憲民主党（カデット）が誕生しました。略称のカデット（каде́ты）は頭文字、また「人民自由党」や「教授の党」とも呼ばれ、大学教授や弁護士、貴族などを中心とした知識人の政党でした。

議会政党としてのカデット

1906年の第1国会選挙でカデットは圧勝し、第一党となります。自由権や法の下の平等などを求める法案を提出するも、政府の強硬な反対により廃案。農民派政党トルドヴィキと協力して土地問題の解決を目指す「四十二人法案」も提出しますが、政府は第1国会を解散します。カデットは抗議として納税・徴兵拒否を宣言する「ヴィボルグの檄」を発しますが、失敗に終わり、多くの党員が選挙資格を剥奪されます。

道標派との対立と進歩ブロック

その後も国会選挙で議席を減らし、党内ではストルーヴェ派（道標派）とミリュコーフ派の対立が激化。ストルーヴェ派は政府の改革に肯定的で保守的な路線を、ミリュコーフ派は新たな革命運動の主導権を握ろうとしました。この対立は論集『道標』に関する論争にも表れます。1912年の第4国会選挙後、カデットは左派オクチャブリストや進歩党と「進歩ブロック」を形成し、政府への批判を強めます。第一次世界大戦開戦後は、政府協力姿勢に転じますが、政府の軽視は続き、進歩ブロックは政府との協調を求めますが、国会は停会となります。

二月革命と臨時政府

1917年の二月革命後、カデットは第一次臨時政府の中枢を担い、ミリュコーフが外相に就任。しかし、「ミリュコーフ通牒」がソビエトの反発を招き、ミリュコーフは辞任。その後、社会主義政党との連立政権を形成しますが、戦争政策や土地問題などで意見の相違が深まり、政権は常に危機にさらされます。

十月革命とその後

十月革命でボリシェビキが政権を掌握すると、カデットは政権を失い、弾圧を受けます。内戦では白軍側に加担しますが、敗北し、党幹部は亡命を余儀なくされます。亡命後も党の路線をめぐって激しい対立が続き、1921年に解党しました。

カデットの政策

カデットは「超階級」的な立場を標榜し、市民的権利の保障、ユダヤ人差別撤廃、地方自治拡大、労働組合の自由などを主張しました。当初は立憲君主制を掲げていましたが、二月革命後は民主共和制に転換。国制についても詳細な検討を行い、間接大統領制を提案しました。土地問題では、地主所有地の一部を有償で強制収用する「四十二人法案」を提出しましたが、党内にも反対の声がありました。外交政策では親英的な立場を取り、第一次世界大戦では連合国支持を表明しました。民族問題では、少数民族への完全な市民権付与を主張しましたが、自治については限定的な立場でした。

カデットの敗北

カデットの敗北には、革命政党との妥協不足、中産階級の弱体、大衆への訴求力の不足、理想と現実の乖離など、多くの要因が指摘されています。彼らはロシアの自由主義を代表する政党でしたが、その理想はロシアの現実にはそぐわない面があり、歴史の転換期に翻弄され、最終的に敗北を喫しました。 彼らの存在と試みは、ロシア革命史を考える上で重要な意味を持つと言えるでしょう。

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