竹井澹如

竹井 澹如（たけい たんじょ）は、天保10年12月3日（西暦1840年1月7日）に上野国甘楽郡羽沢村（現在の群馬県甘楽郡南牧村）で生を受けた、幕末から明治・大正にかけて活躍した政治家です。幼名は万平と称され、その通称で広く知られました。

羽沢村の豪族であった市川五部兵衛の六男として生まれた澹如は、数え14歳となる嘉永5年（1852年）に江戸へと出て学問と武術を修めました。学問は藤森弘庵の塾で深く学び、剣術は斎藤弥九郎に師事してその腕を磨きました。これらの修練は、後に彼が社会で活躍する上での礎となりました。

慶応元年（1865年）、27歳になった澹如は、中山道の宿場町である熊谷宿で本陣を代々務めていた竹井家を継ぎ、第14代当主となりました。これを機に熊谷の地と深い関わりを持つようになり、以後その生涯を熊谷の発展に捧げることとなります。

政治家としては、明治維新後の地方行政再編の中で、明治12年（1879年）に設置された埼玉県会の議員選挙に当選し、初代の議長という要職に就きました。地域の代表として県政に携わりましたが、翌明治13年（1880年）には議長の職を辞しています。議員辞職後も、彼は政治的な立場からではなく、地域の名士として熊谷の街づくりと発展に尽力し続けました。

竹井澹如の功績は多岐にわたります。熊谷の発展のために私財を惜しまず投じ、様々な事業を推進しました。主な事績として以下が挙げられます。

防波堤「万平出し」の築堤：荒川の治水対策として、自身の通称を冠した堤防の復旧に私財を投じ、水害から地域を守るための強固な基盤を築きました。
荒川河川桑園の開拓：吉岡地内の荒廃地を開墾し、養蚕業のための桑畑を 조성했습니다. これは地域の主要産業である蚕業の振興に大きく貢献しました。
熊谷県庁の招致：明治政府の有力者であった陸奥宗光らに働きかけ、現在の埼玉県北部と群馬県東部を管轄する熊谷県を誕生させました。これにより熊谷は一時的に県庁所在地となり、地域の行政中心としての地位を高めました。
中等教育機関の設置：地域の教育水準向上を目指し、「折逓学舎」や「暢発学校」といった中等教育機関を熊谷に開設しました。これは後の地域の教育発展に繋がる重要な事業でした。
学生誘掖会の創設：渋沢栄一ら当時の財界や教育界の著名人とともに「学生誘掖会」を設立しました。これは若者の育成を支援するための活動であり、人材育成にも貢献しました。
「玉の池」の整備：熊谷市街地の「玉の池」周辺を整備し、地域の景観改善と憩いの場の創出を図りました。
熊谷の街路の開拓：近代的な都市基盤整備として、熊谷市街地の道路網の開拓・整備を進め、都市機能の向上に寄与しました。
熊谷堤桜樹の栽植：荒川堤に桜を植樹し、現在の熊谷桜堤の基礎を築きました。これは地域のシンボルとなり、多くの人々に親しまれる景観を形成しました。

これらの事績は、『熊谷市史 後編』にも詳しく記されており、竹井澹如が地域社会に遺した足跡の大きさを物語っています。

大正元年（1912年）8月7日、竹井澹如は74歳でその生涯を閉じました。当初は熊谷寺に葬られましたが、後に墓地は熊谷市内大原に移され、現在も市指定史跡として保存されています。

彼の辞世の句は、「短夜の水にくづるる篝火かな」。夏の夜の情景に自身の最期を重ねた、静かで趣のある一句です。

竹井澹如は、一人の地域名士でありながら、政治、経済、教育、都市環境といった多方面から熊谷の近代化と発展に貢献しました。彼の私財を投じた献身的な活動は、今日の熊谷市の礎を築く上で欠かせないものであり、その功績は今も地域に語り継がれています。

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