竹田出雲

竹田出雲三代：江戸浄瑠璃を彩った名家

竹田出雲の名は、江戸時代の浄瑠璃界において、三代にわたる活躍で知られています。彼らは優れた浄瑠璃作家であると同時に、竹本座という浄瑠璃劇場の座本（興行責任者）としての顔も持ち、その興隆と衰退を肌で感じながら、時代と共に歩んだ稀有な存在でした。

初代竹田出雲：名作の数々を生み出した巨匠

初代竹田出雲（元祖出雲、俳号：千前軒奚疑）は、生年不詳ながら延享4年（1747年）に没したとされています。父は初代竹田近江、兄は二代目近江という浄瑠璃一家に生まれ育ちました。若き日の彼は、宝永2年（1705年）に引退していた名優、竹本義太夫を舞台に復帰させるなど、興行手腕にも長けていました。竹本義太夫から竹本座の座本を受け継いだ初代出雲は、座付作者である近松門左衛門と組んで『用明天王職人鑑』を上演するなど、精力的に活動。正徳5年（1715年）には『国性爺合戦』を17ヶ月間も連続上演する大成功を収めました。

その後、自身も近松門左衛門に師事し、浄瑠璃作者としての道を歩み始めます。享保8年（1723年）の合作『大塔宮曦鎧』で作家デビューを果たし、翌年には初の単独作である『諸葛孔明鼎軍談』を発表。当時の評判記には「名人 極上上吉 竹田出雲、ぷつぷつと智恵の吹出雲」と絶賛された逸話も残されています。寛保元年（1741年）には息子の三代目近江と共に江戸へ下り、名優二代目市川團十郎と交流を持つなど、幅広い交友関係を持っていました。晩年の代表作は『菅原伝授手習鑑』で、生涯で10編ほどの単独作品と、30編を超える合作作品を残しました。

二代目竹田出雲：名作を世に送り出しながらも苦悩

二代目竹田出雲（親方出雲、本名：清定）は、初代の実子として元禄4年（1691年）に生まれ、宝暦6年（1756年）に没しました。父の後を継ぎ、竹本座の座本となった彼は、『義経千本桜』や『仮名手本忠臣蔵』といった、現在でも上演される名作を世に送り出しました。しかし、『仮名手本忠臣蔵』の上演中に起きた楽屋騒動をきっかけに、多くの太夫がライバル座である豊竹座へ移籍するといった事件が発生。以降、合作は続けたものの、作品の評価は芳しくなかったと伝えられています。

また、浄瑠璃作家としては「竹田外記」の名も使用していました。

三代目竹田出雲：浄瑠璃の衰退と座本からの引退

三代目竹田出雲（本名：清宜）は、二代目の実子として生まれました。生没年は不明ですが、若くして「小出雲」を名乗り、いくつかの合作に参加。後に「出雲」を襲名し、竹本座の座本を引き継ぎました。しかし、時代は歌舞伎全盛期へと移り変わり、浄瑠璃の人気が衰退していく中で、安永2年（1773年）には竹本座の権利を他人に譲り、座本を降りることになります。

主要作品：三代にわたる合作の系譜

竹田出雲三代は、単独作品よりも、他の作家との合作作品が多いことが特徴です。初代と二代目が出雲の名で共同執筆した作品もあり、その創作活動は、多くの作家との連携によって支えられていました。以下に、三代にわたる主な作品を、共同執筆者名と共に挙げます。

『大塔宮曦鎧』（享保8年、初代出雲・松田和吉）
『諸葛孔明鼎軍談』（享保9年、初代出雲）
『大内裏大友真鳥』（享保10年、初代出雲）
『出世握虎稚物語』（享保10年、初代出雲）
『三庄太夫五人嬢』（享保12年、初代出雲）
『加賀国篠原合戦』（享保13年、初代出雲・長谷川千四）
『蘆屋道満大内鑑』（享保19年、初代出雲）
『男作五雁金』（寛保2年、初代出雲）
『小栗判官車街道』（元文2年、初代出雲・文耕堂）
『太政入道兵庫岬』（元文2年、二代目出雲・竹田正蔵）
『ひらかな盛衰記』（元文4年、文耕堂・三好松洛・浅田可啓・二代目出雲・初代出雲）
『丹州爺打栗』（寛保3年、二代目出雲・三好松洛）
『夏祭難波鑑』（延享2年、初代出雲・並木千柳・三好松洛・二代目出雲）
『菅原伝授手習鑑』（延享3年、初代出雲・並木千柳・三好松洛・二代目出雲）
『義経千本桜』（延享4年、二代目出雲・三好松洛・並木千柳）
『傾城枕軍談』（延享4年、並木千柳・三好松洛・二代目出雲）
『仮名手本忠臣蔵』（寛延元年、二代目出雲・三好松洛・並木千柳）
『双蝶々曲輪日記』（寛延元年、二代目出雲・三好松洛・並木千柳）
『世話言漢楚軍談』（宝暦2年、二代目出雲・三好松洛・近松半二・中邑閏助・吉田冠子）
『愛護稚名歌勝鬨』（宝暦3年、二代目出雲・吉田冠子・中邑閏助・近松半二・三好松洛）
『崇徳院讃岐伝記』（宝暦6年、二代目出雲・吉田冠子・中邑閏助・近松半二・三好松洛）
『平惟茂凱陣紅葉』（宝暦6年、二代目出雲・吉田冠子・近松景鯉・中邑閏助・近松半二・三好松洛）
『敵討崇禅寺馬場』（宝暦8年、三代目出雲・竹田滝彦・吉田冠子・竹土丸・近松半二・北窓後一・三好松洛）
『日高川入相花王』（宝暦9年、三代目出雲・近松半二・北窓後一・竹本三郎兵衛・二歩堂）
『太平記菊水之巻』（宝暦9年、三代目出雲・二歩堂・近松半二・北窓後一・竹本三郎兵衛・三好松洛）

これらの作品群は、竹田出雲三代の才能と、多くの作家との協働によって生み出された、江戸浄瑠璃の貴重な遺産と言えるでしょう。

参考文献

鶴見誠校注　『竹田出雲集』〈『日本古典全書』〉　朝日新聞社　1968年
秋山虔ほか編　『日本古典文学大辞典』（第4巻）　岩波書店　1988年　※「竹田出雲」の項
『国書総目録』（補訂版）　岩波書店　1989 - 1990年
* 角田一郎・内山美樹子校注　『竹田出雲 並木宗輔浄瑠璃集』〈『新日本古典文学大系』93〉　岩波書店　1991年

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