笑福亭松翁

笑福亭 松翁（しょうふくてい しょおう）は、1869年に生まれ、1942年8月20日に74歳で亡くなった落語家です。本名は森村米吉といいます。

波乱の幼少期と様々な職業経験

松翁は大阪で、大名に金を貸すほどの裕福な家に生まれましたが、幼くして父と死別し、家運が傾きます。10歳の頃には紙屋へ丁稚奉公に出され、その後も花簪（はなかんざし）屋、鉄屋、下駄屋、線香屋など、様々な職業を転々としますが、どれも長くは続きませんでした。

芸界への道と落語との出会い

1885年、知人の世話で歌舞伎役者・坂東あづまの男衆となり、続いて澤村百之助の門下へと移ります。一度は芸能界を離れて花簪屋を営んだ時期もありましたが、20歳頃に素人落語に惹かれ、「秀丸（ひでまる）」「花米（はなよね）」といった名前で高座に上がるようになります。

三代目松鶴への入門と本格的な活動

1886年、三代目笑福亭松鶴に入門し、「三代松（さんだいまつ）」を名乗って半玄人として活動を開始。この半玄人時代にも、判子屋、鼈甲（べっこう）屋、小間物屋、貸座敷など、様々な職を経験しています。翌年には「三代目松竹（さんだいまつたけ）」と改名し、プロの落語家として本格的に歩み始めました。師匠である三代目松鶴は松翁を大変可愛がり、熱心に直接稽古をつけたといわれています。

名跡と所属の変遷

その後、再び落語界を離れ、薬の行商や宿屋などを営んでいましたが、再び復帰。1895年には日清戦争の勝利にちなみ、「萬歳（まんざい）」と名乗ります。師である三代目松鶴が講談に転じたため、1899年には二代目桂文枝（かつら ぶんし）の預かり弟子となり、両師から一字ずつ取った「桂枝鶴（かつら しかく）」を名乗りました。1904年12月には「浮世亭萬歳（うきよてい まんざい）」と改名。翌年2月、三代目松鶴が三友派（さんゆうは）に復帰するのに伴い、行動を共にして「初代笑福亭枝鶴」を襲名しました。そして、1907年11月に四代目笑福亭松鶴を襲名しました。

三友派頭取、そして松翁へ

1912年には初代桂枝雀（かつら しじゃく）らと共に「寿々女会（すずめかい）」を設立しますが、これは長くは続きませんでした。三友派に復帰後、七代目桂文治（かつら ぶんじ）の引退に伴い、三友派の頭取を務めます。しかし、1922年には三友派が吉本興業に吸収合併されました。1925年には、弟子の二代目枝鶴に松鶴の名を譲り、自身は「松翁（しょおう）」と名乗りました。

芸風と人物像

松翁の芸は、飾り気のない素噺（すばなし）一本で勝負する正統派スタイルがこの時代では珍しい特徴でした。その語り口は非常に達者で、嫌味がなく、自然な形で面白さが湧き出すような味わいがあったと評されています。代表的な持ちネタ、すなわち十八番（おはこ）には、『天王寺参り（てんのうじまいり）』『次の御曜日（つぎのごようび）』『餅搗（もちつき）』などがあります。SPレコードも、枝鶴時代だった明治末から松翁となった大正末にかけて数多く残されています。

一方で、高座を降りるとプライドが高く、他の流派との間で衝突が絶えなかったといいます。また、松翁自身も所属する一門や劇団を度々変える一面を持っていました。

門下生たち

松翁の門下からは、多くの落語家が育っています。

笑福亭千鶴
笑福亭鶴蔵
二代目笑福亭仁鶴
初代笑福亭鶴光
二代目笑福亭枝鶴
二代目笑福亭萬歳
笑福亭鶴枝
笑福亭児鶴
笑福亭鶴二
笑福亭里鶴
初代笑福亭鶴瓶
笑福亭鶴丸
笑福亭小枝鶴
三代目笑福亭光鶴

「松翁」名跡のその後

松翁が亡くなった後、この「松翁」の名跡を継いだ者は現在まで出ていません。六代目笑福亭松鶴の晩年には、松竹芸能が実子の五代目笑福亭枝鶴を七代目松鶴に、そして六代目松鶴自身を二代目松翁として襲名させる計画を立てていた時期がありましたが、六代目松鶴が病気で亡くなったため、実現には至りませんでした。

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