笛を持つ少年

作品概要

『笛を持つ少年』（または『羊飼い』）は、盛期ルネサンス期のヴェネツィア派の巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1510年から1515年頃に制作されたと考えられている油彩画です。この作品は、笛を持った羊飼いの少年を描いており、かつてはジョルジョーネの作品とされていましたが、近年ではティツィアーノの作品とする見解が強まっています。

この絵画は、ゆったりとした白いシャツを着た少年が、右手に笛を持ち、視線を落として物思いにふける姿を描いています。少年のポーズや構図は、ジョルジョーネの様式を彷彿とさせますが、現在ではジョルジョーネ自身による作品とは考えられていません。この種の絵画はレオナルド・ダ・ヴィンチにまで遡ることができ、ジョルジョーネもまた、巨匠の作品に触発され、同様の詩的な人物像を描いたと考えられています。これらの作品は、パトロンだけでなく、16世紀初頭のヴェネツィアの画家たち、ティツィアーノ、セバスティアーノ・デル・ピオンボ、ジョヴァンニ・カリアーニの間でも人気を博しました。

本作品は、ジョルジョーネの追随者が彼の失われたオリジナルに基づいて制作した可能性も指摘されています。少年のポーズや髪型は、ウィーンの美術史美術館に所蔵されているジョルジョーネの『ゴリアテの頭を持つダヴィデ』と共通する要素が見られます。そのため、制作者として最も有力な候補はティツィアーノであり、ジョルジョーネの原案をもとに、彼が本作品を制作した可能性が高いと考えられています。

作品の特徴

ティツィアーノの初期作品はジョルジョーネの作風に非常に近いため、両者の作品を区別することは困難な場合が多いです。しかし、本作品においては、ジョルジョーネの作品との比較が比較的容易です。特に、ウィーンの美術史美術館に所蔵されている『矢を持った少年』は、本作品をジョルジョーネの様式と比較する上で重要な作品です。この作品は、ルネサンス期の歴史家マルカントニオ・ミキエルが1531年にヴェネツィアの貴族ジョヴァンニ・ラムが所有する2点の絵画作品の1つとして言及したもので、現在もジョルジョーネの作品と見なされています。

『矢を持った少年』に描かれた少年は、巻き毛を持ち、本作品とは逆方向に首を傾けながら、内省的な視線を向けています。本作品も同様の要素を備えていますが、両作品の間には根本的なアプローチの違いが見られます。『矢を持った少年』に描かれた少年は静寂に包まれた熟考の中に孤立しているように見えるのに対し、『笛を持つ少年』の少年は、鑑賞者の方に再び顔を向ける前に、物思いに耽っている様子が描かれています。

絵画技術の比較も重要です。『矢を持った少年』では、暗い背景から浮かび上がる少年の造形と明暗の移行が、非常に微細で精巧に描かれています。それに対して、『笛を持つ少年』では、細かい巻き毛、滑らかな肌の色彩、リネンのシャツの襞、青いローブの結び目など、筆致が明確に見て取れ、絵具の扱いにおけるティツィアーノの熟練した表現が示されています。これらの特徴から、本作品がティツィアーノの初期の作品である可能性が高いと考えられます。

帰属に関する議論

美術史家バーナード・ベレンソンは、1894年に本作品をジョルジョーネの作品として高く評価しましたが、イタリアの美術評論家ジョヴァンニ・バティスタ・カヴァルカゼルとイギリスの美術史家ジョゼフ・アーチャー・クロウは、19世紀後半にはすでにその帰属に疑問を呈していました。現在では、ティツィアーノの作品とする見方が有力であり、多くの研究者がこの見解を支持しています。他の候補としては、フランチェスコ・トルビドとモルト・ダ・フェルトレの名前も挙げられていますが、ティツィアーノの初期作品との類似性から、彼による作品である可能性が最も高いと考えられます。

来歴

本作品は、イングランド国王チャールズ1世のコレクションであったことが知られています。清教徒革命後の1651年には一時的に売却されましたが、後に王政復古によって回収され、1688年にはホワイトホール宮殿で展示されました。現在はロイヤル・コレクションの一部として、ロンドンのハンプトン・コート宮殿に所蔵されています。

まとめ

『笛を持つ少年』は、その詩的な雰囲気と卓越した絵画技術で鑑賞者を魅了する作品です。長らくジョルジョーネの作品とされてきましたが、現在ではティツィアーノの初期作品であるとの見方が有力です。この作品は、ルネサンス期のヴェネツィア美術の豊かさと、ティツィアーノの才能を物語る貴重な例と言えるでしょう。

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