笠原嘉

笠原嘉（かさはら よみし）は、1928年1月26日生まれの日本の医学者・精神科医です。精神病理学を専門とし、名古屋大学名誉[[教授]]、元藤田保健衛生大学教授を務めました。また、日本精神神経学会の理事長も務めるなど、日本の精神医学界において重要な役割を果たしてきました。

生い立ちと学歴

笠原嘉は兵庫県神戸市に生まれ、1952年に京都大学医学部医学科を卒業しました。その後、1959年には京都大学から医学博士号を授与されています。1966年には京都大学医学部講師（精神医学講座）となり、1968年には同大学医学部助[[教授]]（保健管理センター兼任）に昇進しました。

研究活動と業績

1970年、ハワイ州のイースト・ウエスト・センターへ留学した後、1972年に名古屋大学医学部精神科の主任教授に就任しました。1985年には名古屋大学医学部附属病院の院長も務めています。1991年に名古屋大学を定年退官した後、藤田保健衛生大学医学部精神科教授となりました。1998年には同大学を定年退職し、その後は桜クリニックの院長、後に名誉院長を務めています。

笠原嘉は、中井久夫、宮本忠雄、木村敏、安永浩らと共に、日本における精神病理学の第二世代を代表する人物として知られています。京都大学では村上仁教授に師事し、精神病理学を学びました。

学園紛争時代には、京都大学保健管理センターに勤務し、ひっそりと留年を繰り返す学生に着目し、スチューデント・アパシー（退却神経症）の研究を行いました。また、日本の健康保険制度における診察時間の短さ（初診を除き10分程度）を問題視し、薬物療法を補完する技法として、外来で実施可能な小精神療法を提唱しました。

学会活動

笠原嘉は、日本精神神経学会の元理事長（1988年 - 1994年）であり、日本精神病理学会の名誉会員でもあります。

著書と翻訳

笠原嘉は、数多くの著書を執筆しており、『精神科医のノート』、『青年期 精神病理学から』、『不安の病理』、『精神病と神経症』など、精神医学に関する重要な著作があります。また、海外の精神医学の文献翻訳にも携わり、R.D.レインやハインツ・コフートなどの著作を日本語に翻訳し、日本の精神医学界に大きな影響を与えました。

主な著書

『精神科医のノート』みすず書房 1976
『青年期 精神病理学から』中公新書 1977
『予診・初診・初期治療』診療新社 1980
『不安の病理』岩波新書 1981
『精神病と神経症』みすず書房 1984
『アパシー・シンドローム 高学歴社会の青年心理』岩波書店 1984
『退却神経症 無気力・無関心・無快楽の克服』講談社現代新書 1988
『外来精神医学から』みすず書房 1991
『軽症うつ病 「ゆううつ」の精神病理』講談社現代新書 1996
『新・精神科医のノート』みすず書房 1997
『精神病』岩波新書 1998
『うつ病臨床のエッセンス 笠原嘉臨床論集』みすず書房 2009
『妄想論』みすず書房 2010
『外来精神医学という方法 笠原嘉臨床論集』みすず書房 2011
『再び「青年期」について 笠原嘉臨床論集』みすず書房 2011
『精神科と私 二十世紀から二十一世紀の六十年を医師として生きて』中山書店 2012
『境界例研究の50年 笠原嘉臨床論集』みすず書房 2012
『「全体の科学」のために 笠原嘉臨床論集』みすず書房 2013

主な翻訳

J.H.シュルツ『ノイローゼ』みすず書房 1957
メダルト・ボス『精神分析と現存在分析論』みすず書房 1962
メダルト・ボス『夢 その現存在分析』みすず書房 1970
ハナ・グリーン『デボラの世界 分裂病の少女』みすず書房 1971
R・D・レイン『ひき裂かれた自己 分裂病と分裂病質の実存的研究』みすず書房 1971
R.D.レイン、A.エスターソン『狂気と家族』みすず書房 1972
R.D.レイン『経験の政治学』みすず書房 1973
R.D.レイン『自己と他者』みすず書房 1975
* ハインツ・コフート『自己の分析』みすず書房 1994


笠原嘉は、その研究と臨床を通じて、日本の精神医学の発展に大きく貢献した人物として、広く尊敬を集めています。

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