第一洋食店

北海道苫小牧市の老舗洋食店「第一洋食店」

第一洋食店は、1919年（大正8年）に山下十治郎によって創業された、北海道苫小牧市にある老舗の洋食店です。創業以来、地元の人々に愛され続け、2019年には開業100周年を迎えました。その歴史と文化を伝える特別展「第一洋食店の100年と苫小牧」が苫小牧市美術博物館で開催されたことからも、地域に根差した存在であることが伺えます。

創業の歴史

創業者である山下十治郎は、王子製紙苫小牧工場の迎賓館「王子倶楽部」で腕を磨いた後、1919年8月10日に苫小牧初の洋食店となる第一洋食店をオープンしました。当初、店名は王子製紙の社長であった藤原銀次郎によって「北海第一楼」と名付けられましたが、洋食店にはそぐわないという事で、藤原の了解を得て「第一洋食店」となりました。

開店当初は王子製紙関係者が主な客層でしたが、徐々に地元の人々も訪れるようになり、当時としては珍しい洋食店として繁盛しました。当時の苫小牧の人口は1万3647人、一般的に「人口5万人以上でなければ洋食店の経営は成り立たない」と言われていた時代に、第一洋食店は宴会なども積極的に取り入れ、経営を軌道に乗せました。

戦火と文化の発展

1921年には「コイノボリ大火」によって創業時の建物が焼失しましたが、その後も営業を続けました。1925年にラジオ放送が開始されると、苫小牧でいち早くラジオを購入し、店内に設置。ラジオを目当てに多くの人が訪れ、賑わいました。1927年には昭和金融恐慌の影響で一時的に客足が遠のくこともありましたが、山下十治郎から二代目を継いだ山下正は、店を単なる洋食店としてではなく、文化的なサロンとしても発展させました。

山下正は、美術品コレクターとしての顔も持ち、その美意識は「第一洋食店カルチャー」とも呼ばれる独自の文化を苫小牧に作り上げました。斎藤茂吉、山下清、立川談志など、多くの文化人や芸術家がこの店を訪れ、食事を楽しみました。

移転と現在

1953年8月には現在の場所である錦町に移転オープン。店のロゴやメニュー表のデザインは、民芸運動で知られる芹沢銈介が担当。店内には、川上澄生、遠藤ミマン、原精一などの美術品が飾られています。1957年の改築は、民芸設計家の伊東安兵衛が手掛け、北海道初の本格的な民芸建築としても知られています。

1970年代後半になると、苫小牧市にも大型店が進出し、商店街の来客が減少しましたが、第一洋食店は親子連れなどの根強いファンに支えられ、その味を守り続けています。

現在、三代目の山下明が店主を務めています。山下明は、小田和正も所属していた混声合唱団でソリストを務めていた経歴を持ち、店内ではオペラがBGMとして流れています。また、バイオリンやピアノの生演奏ライブも企画されており、音楽関係者の来店も多いです。

代表的な料理

第一洋食店では、創業当時から変わらない味が守られています。以下は代表的なメニューです。

ビーフシチュー: 創業時から変わらない味で、2週間以上かけて赤ワインで煮込んだデミグラスソースが特徴です。
タンシチュー、ホホ肉シチュー: ビーフシチュー同様、デミグラスソースを作る際に小麦粉を焦がして苦味を出すのが特徴です。これは伝統的なデミグラスソースの製法です。
* クロケット: ジャガイモを使用しない独自の製法で作られています。一時メニューから外れていましたが、三代目の山下明が復活させました。

第一洋食店は、長きにわたり苫小牧の人々に愛されてきた、歴史と伝統が息づく洋食店です。その味と雰囲気は、訪れる人々に特別な時間を提供し続けています。

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