第一生命日比谷ファースト

第一生命日比谷ファースト：歴史と現代が融合する建築

東京都千代田区有楽町一丁目に位置する第一生命日比谷ファーストは、地上21階建ての近代的なオフィスビルです。現在は第一生命ホールディングスおよびその子会社である第一生命保険の本社機能が置かれています。かつてはDNタワー21として知られたこの建物は、単なる高層ビルではなく、過去の歴史的建造物を巧みに取り込み、東京都の選定歴史的建造物としてその価値が認められています。

本ビルが建つ敷地には、昭和初期にそれぞれ竣工した二つの重要な建築物が存在していました。一つは1933年完成の農林中央金庫有楽町ビル、もう一つは1938年竣工の第一生命館です。特に第一生命館は、日本の近現代史において特筆すべき場所であり、第二次世界大戦終結後の1945年から短期間ながらGHQ（連合国軍最高司令官総司令部）の本部として使用された歴史を持っています。

両ビルが築50年以上を経過した昭和末期、第一生命保険と農林中央金庫はそれぞれの本社機能を担う建物の再開発を検討していました。そこで両社は、同じ街区にある二つの建物を一体として再開発する共同プロジェクトを選択しました。この計画では、既存の歴史的建造物を部分的に保存することで特定街区制度に基づく容積率の割増しを受け、超高層ビルを建設するという方針が固められました。

この再開発計画は、両社と東京都、そして設計者との間で詳細な協議を経て具体化されました。特定街区制度の適用条件として、歴史的建造物の保存部分が細かく定められました。具体的には、第一生命館の北側全体の外壁や西寄り大部分、および農林中央金庫有楽町ビルの外壁イメージの保存が認められました。加えて、1階エントランスホール部分を一般に開放することで、建物内部の一部が公開空地として認められるという特例も活用されました。これらの条件を満たすことで、基本的な容積率1,000パーセントに加え、特定街区制度による230パーセントの割増しが適用され、合計1,230パーセントという高い容積率での開発が可能となったのです。設計は、清水建設株式会社一級建築士事務所が主導し、当時同社の要望で参加した国際的な建築家ケビン・ローチ氏との共同で行われ、1995年までの竣工を目指して進められました。

実際の建設工事は、まず旧棟の解体から始まりました。1989年12月には、第一生命館の東寄り部分と農林中央金庫有楽町ビルの解体工事に着手。第一生命館の北側保存壁面は事前に鉄骨で補強された上で躯体が撤去され、農林中央金庫有楽町ビルは保存対象の円柱や角柱部分が慎重に切り離された後に解体が進められました。

解体された跡地には、高層棟（新館）が建設されました。1990年8月14日に起工式が行われた新館は、1993年10月29日に竣工を迎えました。この新館の建設にあたっては、農林中央金庫有楽町ビルで保存された一部の石材が再利用されたほか、レプリカも効果的に用いられ、旧ビルの意匠がかつてとは異なる位置や形でイメージとして継承されました。

一方、第一生命館の西寄り部分についても大規模な改修工事が実施されました。この工事は高層棟竣工後の1993年10月1日に始まり、1995年9月18日に完了しました。外壁については、屋上塔屋部分や新館との接続部分を除いてほぼ全面的に保存されましたが、内部は完全に様相が一変しました。保存対象となった一部の「保存室」を除き、内装、設備、共用部、さらには一部の躯体までが取り壊され、間取りが完全に変更されるという大改造が行われたのです。屋上部分では、かつて塔屋や高射砲台があった場所に、全面ガラス張りのカフェテリアが新たに増築されました。

本ビルの外観は、かつての二つの建物の要素を巧みに融合させた独特のデザインです。L字型だった第一生命館は、西寄り部分が大きく保存されつつ、東寄り部分は北側壁面のみを保存して解体されましたが、そのファサードイメージは、もともと農林中央金庫有楽町ビルがあった東側の南壁面にまで拡張されています。農林中央金庫有楽町ビルも外壁のみを保存解体されましたが、その意匠は、第一生命館の東寄り部分があった東側北壁面にまでイメージとして引き継がれています。高層部分（新館）は、両旧棟の東側に位置しています。また、戦時中の金属供出によって失われた両旧棟の外装建具金物類の一部は、再開発を機にレプリカが製作・設置され、創建時の姿が再現されました。

内部空間における保存箇所は限定的でした。第一生命館の西寄り保存部分では、6階にあるマッカーサー記念室と貴賓室がほぼ現状のまま保存されています。6階の大会議室や小会議室については、ホワイトブロンズ製の扉など一部の部材が再利用・再構築される形でイメージ保存が図られました。しかし、イタリア産大理石を用いた営業室や金庫室、その他の設備や共用部などは保存対象とならず、全てが撤去され、保存室以外の間取りは全面的に変更されました。窓枠も、保存室を含め、当初のスチール製二重窓からアルミサッシに全て交換されています。第一生命館の東寄り部分や農林中央金庫有楽町ビルの内部は、壁面保存のみであったため、全てが失われました。

この建物は当初、第一生命保険と農林中央金庫の共同所有であり、両社の頭文字を取って「DNタワー21」と命名されました。しかし、2022年1月には農林中央金庫が千代田区大手町のOtemachi Oneタワーへ移転。同年4月、第一生命保険が農林中央金庫の保有する持分を取得し、単独所有となりました。これに伴い、ビルの名称も現在の「第一生命日比谷ファースト」へと変更され、現在に至ります。

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