第三の波 (ハンティントン)

第三の波：民主化の潮流の研究

『第三の波（The Third Wave: Democratization in the Late Twentieth Century）』は、アメリカの政治学者サミュエル・P・ハンティントンによって1991年に発表された著作であり、1974年を起点とする民主化の過程について体系的に分析しています。ハンティントンは、歴史の中で民主化が3度の波として認識できると主張し、特に第三の波は世界中で広がった民主的な動きについて詳述しています。

ハンティントンの経歴

サミュエル・P・ハンティントン（1927年生）は、ハーバード大学で博士号を取得し、その後、同大学とコロンビア大学で教えてきました。1970年にはハーバード大学の政治学部長に就任し、1989年にはジョン・M・オリン戦略研究所の所長も務めました。また、彼はアメリカ合衆国の国家安全保障会議やアメリカ政治学会の理事としても活動し、比較政治や政軍関係についての研究を行っています。

民主化の定義と三つの波

ハンティントンは民主主義を「選挙を通じた集団的な意志決定者の選出」と定義しており、非民主主義体制からこの体制へ移行する過程を「民主化」と呼んでいます。彼の示す三つの民主化の波は以下のとおりです：

1. 第一の波（1828年–1926年）：アメリカ合衆国の独立やフランス革命などから始まる。
2. 第二の波（1943年–1962年）：第二次世界大戦中の民主化が進展。
3. 第三の波（1974年–1990年代）：ポルトガルを起点に、南欧や第三世界、さらには共産主義国にも広がる。

第一の波の後には、ファシズムの台頭が続き、第二の波の後にも権威主義政府が各地で現れました。そして、第三の波は1974年のポルトガルのクーデターが起点となりました。

第三の波の要因

ハンティントンは、第三の波の要因として、権威主義体制の正統性への疑問、生活水準や教育の向上、カトリック教会の態度変化、またアメリカとソビエトの安全保障政策の影響を指摘しています。さらに、マスコミュニケーションの普及により、各国に民主化モデルが伝わることも重要な役割を果たしました。

しかし、これらの要因だけでは民主化の条件が整ったとは言えません。成功するためには、政治的リーダーシップが不可欠です。ハンティントンは、民主化の過程を以下の3つの視点から理解する必要があると述べています：

1. 旧体制の指導者が進める体制改革。
2. 革新派のリーダーによる体制変革。
3. 旧体制と反対派の協力による体制転換。

このように、民主化の過程は従来の指導者とその対立者との間の力の動きによって決定されます。暴力的な手段で確立された体制は、一般に暴力的な方法によって維持される傾向があることもハンティントンは指摘しています。

政治的不安定と民主化の成否

ハンティントンが特に強調しているのは、非民主主義体制であっても、独裁政権や軍事政権が存在する場合、その政権を一掃することが必ずしも民主化の成功に繋がるわけではないという点です。逆に、急激な変革は政治的不安定を招く可能性があります。したがって、民主化を進める際には旧体制によって築かれた統治手段をただ排除するのではなく、段階的に移行し、政治的安定性を維持する必要があります。

成功した民主化においては、前政権の体制の要素を新しい民主政治の枠組み内で組み合わせることが重要であり、こうした複雑な力学を理解することは、今日における政治的な課題を解決するための手助けとなるでしょう。

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