第六五三海軍航空隊

第六五三海軍航空隊：太平洋戦争の激戦を駆け抜けた空の精鋭

第六五三海軍航空隊は、太平洋戦争中に日本海軍に存在した航空部隊の一つです。機動部隊に所属し、空母艦載機部隊として、マリアナ沖海戦、台湾沖航空戦、レイテ沖海戦などの主要な海戦に参加しました。その短い活動期間の中で、数々の激戦を経験し、多くの犠牲者を出しながらも、勇敢に戦い抜いた部隊でした。

空地分離方式の先駆け

従来の空母飛行隊は、各空母に所属し、艦長の指揮下で運用されていました。しかし、この指揮系統では、航空戦隊司令部が飛行隊を直接指揮することができず、また、飛行隊が行動中に母艦が機能不全になった場合、僚艦への緊急着艦に手間取るという問題がありました。そこで、母艦と飛行隊の指揮系統を分離し、全ての飛行隊を統括する部隊として、第六五三海軍航空隊が誕生しました。これは、陸軍飛行隊が先に実施していた「空地分離方式」を海軍が採用した最初の例であり、航空戦術における新たな試みでした。

編成と初期の活動

第六五三海軍航空隊は、瑞鶴飛行隊を基幹とし、第五十一航空戦隊の訓練生を補充して発足しました。しかし、瑞鶴飛行隊は、昭和18年11月の「ろ号作戦」で大きな損害を受けており、部隊の多くは訓練未了の搭乗員で構成されていました。新編された第六〇一海軍航空隊が瑞鶴に搭載されたため、六五三空は千歳、千代田、瑞鳳といった空母に搭載され、マリアナ諸島やパラオ諸島への緊急輸送任務に従事しました。

マリアナ沖海戦

昭和19年6月、第一機動艦隊はタウイタウイ島に停泊し、マリアナ沖海戦に向けた作戦計画が進められました。第六五三海軍航空隊は、第六〇一空、第六五二空に比べて技量が低いと判断され、一回限りの総攻撃が精一杯だと考えられました。タウイタウイ島での訓練中、泊地が無風のため発着艦訓練が十分にできず、5月22日には、千歳が敵潜水艦に狙われるなど、不運も重なりました。6月19日、第六五三海軍航空隊は、天山、爆装零戦、零式艦上戦闘機で敵機動部隊に攻撃を仕掛けましたが、戦果は限定的で、多くの損害を出して帰還しました。翌日の薄暮攻撃でも、さらに損害を出し、マリアナ沖海戦での戦いは、第六五三海軍航空隊にとって苦い経験となりました。

台湾沖航空戦

マリアナ沖海戦後、第六五三海軍航空隊は再編され、訓練に励みましたが、10月中旬に敵機動部隊が沖縄に接近し、沖縄や台湾への空襲が激化すると、五十一航戦と共に南九州へ進出を命じられました。しかし、第二航空艦隊司令部との連携がうまくいかず、増援部隊としての役割を十分に果たすことができませんでした。10月14日の出撃では、悪天候のため多くの機体が遭難し、戦わずして戦力外となってしまうという、不運な結果となりました。

レイテ沖海戦

昭和19年10月、連合軍がレイテ島に上陸すると、連合艦隊は捷一号作戦を発動しました。第三航空戦隊は、第二艦隊による敵艦艇撃滅を援護する「囮艦隊」に指定され、第六五三海軍航空隊も残存機をかき集めて、最後の作戦に出撃しました。10月24日、敵機動部隊を発見した第六五三海軍航空隊は、総攻撃を敢行しましたが、敵戦闘機隊に迎撃され、壊滅的な損害を受けました。この日をもって、第六五三海軍航空隊の組織的行動は終結し、残存機はルソン島へ退避しました。

解散

レイテ沖海戦後、第三航空戦隊は壊滅し、第六五三海軍航空隊もフィリピン駐留部隊と行動を共にしましたが、昭和19年11月15日をもって解散しました。

部隊の主力機種

九七式艦上攻撃機：少数機
天山：九七式艦上攻撃機と合わせて定数48
* 零式艦上戦闘機：戦闘用52型、爆装用21型。合計定数96機

まとめ

第六五三海軍航空隊は、空母と航空隊の指揮系統分離という新たな試みのもと、太平洋戦争の激戦を戦い抜きました。その短い活動期間の中で、多くの犠牲を出しながらも、勇敢に戦い抜いた部隊でした。しかし、その活動は、航空戦術の変革期における試行錯誤と、戦局の悪化という時代の波に翻弄された、悲劇的なものでもありました。

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