第六十六銀行

第六十六銀行：尾道から広島へ、地方銀行の変遷

株式会社第六十六銀行は、1897年に広島県尾道市で設立された銀行です。その前身である第六十六国立銀行を含め、設立の背景から、その後の合併、そして現在の広島銀行に至るまでの変遷を詳しく解説します。

設立の背景

古くから瀬戸内海の重要な港町として栄えた尾道は、豪商たちの財力によって繁栄しました。江戸時代には広島藩に属し、広島が政治の中心であったのに対し、尾道は瀬戸内地域有数の商都として藩財政を支えました。18世紀半ばの西廻り航路開通によってその繁栄は絶頂に達し、明治時代に入っても県下有数の経済先進地としての地位を維持していました。1873年には住友家の分店が置かれたことからも、その経済力が窺えます。

こうした背景のもと、1876年の国立銀行条例改正による国立銀行設立条件の緩和を受け、広島県で国立銀行設立の機運が高まりました。県庁所在地の広島に先駆け、県下初の国立銀行として設立されたのが第六十六国立銀行です。

第六十六国立銀行時代

1878年11月29日、第六十六国立銀行は資本金100,000円をもって設立され、翌1879年4月20日に尾道町久保町に本店を構え開業しました。当初、資本金は180,000円に増額され、広島や福山にも出張所を設けました。

初代頭取には、江戸時代から金穀貸付業を営んでいた豪商の橋本吉兵衛が就任しました。橋本家を中心に、尾道の有力商人や備後南部の大地主が主な株主となり、福山の有力商人である藤井与一右衛門も設立発起人に名を連ねました。その後、資本金は増額され1883年下半期には360,000円に達しましたが、松方デフレ期の不況により伸び悩み、1886年12月には180,000円に減額されました。しかし、藤井らを株主に加え、1889年頃からの好況期に業績を拡大しました。

1882年の日本銀行条例および日本銀行開業に伴い、日銀に紙幣発行の権限を集約する動きが進むと、1886年5月には国立銀行条例が再度改正され、すべての国立銀行に対し設立免許後20年を期限に銀行紙幣の償却が義務付けられました。さらに、1896年には国立銀行営業満期前特別処分法が制定され、国立銀行の普通銀行への転換が進められました。これにより、第六十六国立銀行も普通銀行への転換を図ることとなりました。

第六十六銀行時代

1897年7月1日、第六十六国立銀行は普通銀行「第六十六銀行」として再発足しました。設立時の資本金は1,000,000円に増額され、1901年末時点で払込金は508,000円に達しました。

第一次世界大戦中の好況期には、県下で比較的規模の大きかった第六十六銀行は積極的な業務拡張政策をとりましたが、大戦後の不況に見舞われると、県下の他行との合併が模索されるようになりました。1919年夏以降、広島市を本拠地とする（旧）廣島銀行・広島商業銀行の合併工作が表面化すると、第六十六銀行もこれに参加し、翌1920年春には3行合併の契約が結ばれました。その後、三次貯蓄銀行・比婆銀行・角倉銀行・双三貯蓄銀行の備北4行が合併契約に加わり、同年6月30日、第六十六銀行を含む7行の新立合併によって、（旧）藝備銀行が発足しました。これにより、第六十六銀行は10月1日に解散し、本店は藝備銀行の尾道支店として継承されました。

第六十六国立銀行に遅れて設立された広島の第百四十六国立銀行（旧廣島銀行の前身）は、設立当初の資本金が第六十六国立銀行の半分にも満たない80,000円であり経営も不安定でしたが、日清戦争以降、軍都として急成長を遂げ都市インフラの整備が進んだことを背景に、預金額などで第六十六銀行の尾道本店を次第に圧倒するようになりました。新銀行の本店が尾道ではなく広島に置かれたことは、県下の金融界における尾道と広島の地位が逆転したことを象徴する出来事となりました。

その後

藝備銀行はその後も発展・拡大を続け、第二次世界大戦末期の1945年5月には戦時下の「一県一行」政策を背景に、広島県下の4行と合併して（新）藝備銀行が発足しました。戦後の1950年、藝備銀行は「廣島銀行」と改称し、その後「広島銀行」（1988年）と再改称し現在に至っています。

第六十六銀行は、尾道という地方都市から生まれた銀行でありながら、時代の変化に対応し、他行との合併を経て現在の広島銀行へと発展しました。その歴史は、地方銀行の変遷を物語る上で重要な事例と言えるでしょう。

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