第百一号型掃海特務艇

大東亜戦争において日本海軍が運用した艦艇の中には、戦地で敵対勢力から接収したいわゆる「鹵獲艦艇」が数多く存在しました。その一つに挙げられるのが、この「第百一号型掃海特務艇」です。本型は、元々オランダ海軍がオランダ領東インド（現在のインドネシア）における防衛任務を目的として建造した「ジェンベル級」掃海艇でした。

日本海軍への編入経緯

太平洋戦争開戦後、日本軍が南方地域へと進攻する過程で、オランダ領東インドもその作戦目標となりました。特に南方作戦実行中の1942年（昭和17年）、日本軍はインドネシア各地でオランダ海軍の艦艇や建造中の船舶を捕獲しました。この時、ジェンベル級掃海艇のうち、建造中であったものや、タンジョン・プリオク陥落時に自沈したもののうち7隻が日本軍によって接収されました。

これらの捕獲艇は、1943年（昭和18年）から1944年（昭和19年）にかけて、スラバヤに所在する第102工作部にて日本海軍の基準に合わせて整備が施されました。整備を終えた各艇は、順次日本海軍の艦籍に編入され、掃海特務艇としてインドネシア沿岸域での船団護衛を主な任務としました。

諸元と兵装

第百一号型掃海特務艇の基本的な性能諸元は以下の通りです。

基準排水量：175トン
水線長：34.8メートル
水線幅：5.7メートル
吃水（公試時）：1.9メートル
機関：ディーゼル機関1基
機関出力：350馬力
速力：12～13ノット

兵装については、共通して25mm連装機銃1基、25mm単装機銃1基、そして爆雷6個を装備していました。さらに、艇によっては13mm単装機銃の搭載数に差異が見られます。

第101号、第102号、第103号、第105号：13mm単装機銃 1基
第104号、第106号、第107号：13mm単装機銃 2基

派生型の可能性

接収された7隻のうち、タンジョン・プリオクで自沈していたものを引き揚げて整備された第104号、第106号、第107号は、他の艇と比較して一部構造に違いが見られました。特に、操舵室付近が大型化されている点や、25mm機銃の配置が異なる点が挙げられます。これらの構造的な変更点から、一部の文献（例：雑誌『世界の艦船』1996年2月号増刊）では、これら3隻を「104号型掃海特務艇」として区別する場合もあります。

同型艇とそれぞれの運命

日本海軍に編入された第百一号型掃海特務艇は以下の7隻です。（括弧内はオランダ海軍時代の艦名）

第101号（フロレス）：1942年 3月に建造中に捕獲され、同年12月に艦籍編入、1943年 6月に整備完了。戦後はオランダへ引き渡された後、インドネシア海軍に所属したとされます。ただし、戦史叢書によれば、1944年5月17日にスラバヤで連合軍による空襲（トランサム作戦）を受け沈没したという記録も存在します。

第102号（ファク・ファク）：第101号と同様の経緯で整備され、戦後オランダへ引き渡されました。

第103号（ガロエト）：第101号と同様の経緯で整備され、1943年7月に完成。戦後オランダに引き渡されました。

第104号（ジェンベル）：1942年 3月にタンジョン・プリオクで自沈していたものを捕獲。1943年1月に艦籍編入され、同年2月に整備完了しました。1945年 5月8日、バリ島北岸沖で潜水艦による雷撃を受け着底しました。

第105号（グリセー）：建造中に捕獲され、1943年4月に艦籍編入、同年8月に整備完了しました。1945年5月25日、ジャワ島中部北岸沖でイギリス海軍の潜水艦『トレンチャント』の雷撃により戦没しました。

第106号（ジォンパン）：第104号と同様に自沈していたものを捕獲。1943年4月に艦籍編入、同年8月に整備完了しました。戦後は第101号と同様、オランダを経てインドネシア海軍に所属しました。

第107号（エンガノ）：第106号と同様の経緯で編入され、1944年8月に整備完了しました。戦後は第101号と同様、オランダを経てインドネシア海軍に所属しました。

これらの掃海特務艇は、限られた戦力の中で、主に占領地の沿岸交通の維持に貢献しました。その多くは戦災や事故により失われるか、戦後旧所有国へと返還される運命をたどりました。

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